岩倉靖子

岩倉靖子：華麗なる出自と悲劇的な最期

岩倉靖子（1913年1月17日 - 1933年12月21日）は、公爵家の令嬢として生まれながら、共産主義に傾倒し、赤化華族事件に関与、保釈中に自ら命を絶った人物です。彼女の短い生涯は、華族社会の光と影、そして激動の時代を映し出しています。

生い立ちと共産主義への傾倒

岩倉具視を曾祖父に持つ靖子は、岩倉具張公爵の三女として誕生しました。しかし、父・具張が金銭スキャンダルで失踪、一家は世間の目を避けるように転居を余儀なくされます。この時期に大叔母の影響でキリスト教に入信しますが、洗礼は受けませんでした。

学習院女学部から日本女子大学へと進んだ靖子は、当時の社会情勢から共産主義に触れ、その思想に共鳴していきます。司法官僚の横田雄俊らと「五月会」を結成し、上流階級の女性たちへのオルグを試みますが、組織はすぐに立ち行かなくなります。

赤化華族事件と転向、そして自死

1933年、警視庁特高課による華族子弟の共産党シンパ捜査が強化され、靖子も検挙されます。特高は彼女の転向を促しますが、靖子は当初、共産主義思想を曲げませんでした。しかし、収監中に旧約聖書を読み、キリスト教信仰を取り戻し、最終的には転向を決意します。

釈放後、靖子は12月21日、自宅で頸動脈を切り自ら命を絶ちました。20歳という若さでした。遺書には、事件によって家名を傷つけたことへの謝罪、転向への苦悩などが綴られていたと推測されています。

自死の背景

靖子の自死の動機については諸説あります。赤化事件で家名を汚したことへの自責の念、転向を恥じたことによる自殺などが考えられますが、真相は明らかではありません。浅見雅男は、自殺当日に不良華族事件に関係した華族への処分を決める会議が開かれていたことを指摘し、岩倉家への影響を懸念した靖子が、自らの死によってせめてもの恩情を図ろうとしたのではないかと推測しています。

備考

靖子が日本女子大学に編入した背景には、家計の事情があったとされています。
拘留中、靖子は特別待遇を受けていました。これは、彼女が元勲・岩倉具視の曾孫であり、皇族の縁者でもあったためです。
浅見雅男は、靖子が容易に転向しなかった理由として、幼少期の家庭環境が影響していたのではないかと分析しています。

岩倉靖子の生涯は、華族という特異な立場にありながら、社会変革を求める若者の姿を象徴しています。彼女の悲劇的な最期は、時代の大きなうねりの中で翻弄された人々の苦悩を今に伝えています。

参考文献

浅見雅男『公爵家の娘 岩倉靖子とある時代』リブロポート、1991年2月10日

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