岩城けい

岩城 けい（いわき けい）は、1971年に大阪府大阪市で生まれた日本の小説家です。

国内の大学を卒業した後、岩城氏は単身オーストラリアへと渡航しました。ニューサウスウェールズ州にあるサウスウェストTAFE（South West Institute of TAFE）でヴィジュアルアート科のディプロマ課程を修了するなど、異文化の中で学びを深めました。

オーストラリアでの生活は多岐にわたる経験に満ちていました。現地では、保険会社での事務、製品マニュアルの翻訳、あるいは日本語の家庭教師など、多岐にわたる職務を経験する中で、現地の社会や人々と深く関わりました。その後、現地で日本人男性と結婚し、2013年9月時点ではビクトリア州に在住しており、その時点でオーストラリアでの生活は20年に及んでいました。この長期間にわたる海外での生活経験は、その後の作家活動の重要な糧となります。

作家としての第一歩は、2013年5月に「さようなら、オレンジ」で第29回太宰治賞を受賞したことから始まります。この受賞は、長年培ってきた独自の感性と、異文化で得た視点が結実した瞬間でした。受賞時、ペンネームはKSイワキでしたが、後に本名である岩城けいとして活動を展開していきます。ペンネームに含まれるKSは、宝貝（カウリー・シェル）の頭文字から取られたと言われています。

「さようなら、オレンジ」は、選考委員である加藤典洋、荒川洋治、小川洋子、三浦しをんといった錚々たる顔ぶれによって高く評価されました。受賞翌月の2013年6月には、同作を収めたムック本『太宰治賞2013』（筑摩書房編集部編集）が刊行されると、その内容が好評を博し、異例の増刷となるなど、大きな注目を集めました。

同年8月には、『さようなら、オレンジ』が単行本として筑摩書房より改めて刊行されました。単行本刊行後の同年12月、同作は第150回芥川龍之介賞の候補作として選出され、さらに評価を高めました。これは、新人作家としては異例の速さで文学界の主要な賞に名を連ねることとなった出来事です。

翌2014年には、同じく『さようなら、オレンジ』で第8回大江健三郎賞を受賞。さらに第27回三島由紀夫賞の候補にも挙がり、デビュー作にして複数の権威ある文学賞でその実力が認められることとなりました。これらの受賞は、オーストラリアという設定の中で人間の内面や社会の側面を鋭く描いた岩城氏の文学が、広く受け入れられたことを示しています。

続く第2作となる『Masato』もまた、高い評価を得ました。2015年には第37回野間文芸新人賞の候補となり、そして2016年には同作『Masato』が第32回坪田譲治文学賞を受賞し、作家としての地位を確固たるものにしました。『Masato』もまた、オーストラリアを舞台に描かれており、異文化間の交流やそこで生きる人々の複雑な心理を掘り下げています。

岩城けい氏の作品は、オーストラリアでの生活経験に基づいたものが多く、異文化の中でのアイデンティティ、人間関係、社会の仕組みなどを独特の視点から描いています。その筆致は繊細でありながらも力強く、読者を引きつけます。主な著作としては、以下のものが挙げられます。

単行本

『さようなら、オレンジ』（2013年8月 筑摩書房 / 2015年9月 ちくま文庫）
『Masato』（2015年9月 集英社 / 2017年10月 集英社文庫）
『ジャパン・トリップ』（2017年8月 KADOKAWA / 2020年3月 角川文庫）
『Matt』（2018年10月 集英社）
『サンクチュアリ』（2020年11月 筑摩書房）
『サウンド・ポスト』（2022年7月 筑摩書房）

雑誌掲載小説

小指（ピンキー）（『すばる』2015年1月号）

雑誌掲載エッセイなど

砂のかたち（『すばる』2021年6月号）

岩城けい氏は、オーストラリアでの長年の経験を背景に、異文化や人間の内面を深く掘り下げた作品を発表し続けており、現代日本文学において独自の存在感を放っています。その作品世界は、日本国内だけでなく、広く読者に影響を与えています。

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