岩田惣三郎

岩田 惣三郎

岩田 惣三郎（いわた そうざぶろう）は、天保14年（1843年）に生まれ、昭和8年（1933年）に没した、戦前日本の代表的な実業家、そして相場師です。尾州銀行や岩田商事など複数の企業を自ら興し、また、摂津紡績（現在の大日本紡績）の設立にも深く関与しました。企業の経営に携わる傍ら、大阪三品取引所の理事や監事、さらには篤信家として真宗大谷派の運営においても重役を務めるなど、その活動は多岐にわたりました。

生涯

天保14年3月15日（新暦1843年4月14日）、惣三郎は尾張国（現在の愛知県）中島郡奥村瀬古（現・一宮市奥町）にて、父・岩田常右衛門の次男として誕生しました。幼少期は松之丞と名乗り、嘉永4年（1851年）から安政3年（1856年）にかけて、円光寺の寺子屋で読み書きを学びました。

明治3年（1870年）3月、惣三郎は分家独立し、故郷の一宮と名古屋の間を行き来しながら綿糸や綿布の商売を開始しました。明治7年（1874年）には大阪へ進出し、兄の常右衛門と共に船場に店舗を構えました。明治14年（1881年）7月には独立を果たし、北久太郎町に自身の拠点を設け、海外の商館との取引を通じてインド糸やイギリス製の綿糸を輸入するなど、事業規模を拡大していきました。

実業界での地位を確固たるものとする中で、明治22年（1889年）4月15日には摂津紡績の設立発起人となり、初代取締役の一人に就任しました。彼は女工への傘支給や僧侶による法話を取り入れるなど、従業員の福利厚生にも配慮しました。一度は取締役を退任しましたが、会社の業績が悪化すると復帰し、監査役も務めました。

明治26年（1893年）末には、中村惣兵衛らと共に発起人総代として内外綿花、綛糸、木綿を扱う取引所（後の大阪三品取引所）の設立に参加しました。ここでは27年間理事、3年間監事を務め、特に監事の田附政次郎とは激しい相場での競争を繰り広げました。明治29年（1896年）2月2日には尾州銀行を創立して取締役・頭取を務め、甲子興業も設立して社長に就任。大阪商業会議所議員としても活動しました。

大正7年（1918年）6月1日、摂津紡績が尼崎紡績と合併し大日本紡績が誕生すると、引き続き取締役を務めました。同年9月には、個人事業として行っていた綿糸販売業を株式会社化し、岩田商事を設立。同時期に大安生命保険の取締役も兼任しました。

第一次世界大戦中、惣三郎は相場師としての手腕を発揮しました。鐘淵紡績との長期売買契約を結んだ後、大正7年（1918年）に綿糸価格が215円まで暴落した局面で大胆に買い入れを行い、翌年には価格が700円にまで高騰したことで莫大な利益を獲得。会社に70割を超える配当をもたらしました。大正8年（1919年）頃には、三代目茂木惣兵衛と協力して中外綿業を設立し、長男の松之助を社長に据え、自身は顧問として指導しました。

しかし、大正9年（1920年）3月に発生した戦後恐慌により綿糸相場は暴落し、中外綿業は破綻に追い込まれました。岩田商事も長期先物約定によって多額の債務を負い、手形決済を拒否したことから、大正10年（1921年）2月には大阪合同紡績や東洋紡績など複数の紡績会社から訴訟を提起される事態となりました。最終的には日本銀行総裁の結城豊太郎の仲介によって破産は免れたものの、惣三郎は業界内での信用を大きく失い、「因業老人」と揶揄されるようになります。これを機に事業の主導権を三男の宗次郎に譲り、大正10年（1921年）1月30日には大日本紡績の取締役も辞任しました。

昭和5年（1930年）、米寿を迎えるにあたり大阪三品取引所の理事を引退しました。晩年は京都市下京区の別邸で隠居生活を送り、寿楽と号して趣味に没頭しました。囲碁は初段の腕前と称され、関西の実業家大会にも出場。また、浄瑠璃を自ら演じるなど九十九会を主導したほか、京都の書家・東南沢堂に師事して書道を学び、新聞社主催の実業家余技大会にも作品を出品しました。昭和8年（1933年）8月24日、慢性腎臓病のため死去しました。

宗教活動

惣三郎は先祖代々続く真宗大谷派への信仰を篤く守り、自身も同派の運営に深く関わったことから、「岩田本願寺」の異名をとるほどでした。明治26年（1893年）1月には大谷派本願寺の世話方に就任。明治42年（1909年）6月には会計部相談役として経理委員を務めるなど、派の財務や運営に関与しました。相続講参与、財務監査、本廟護持財団法人理事・参議員、そして大正9年（1920年）12月20日には本山総講顕・財務顧問を歴任しました。

また、私立大谷女学校、大谷高等女学校、大谷女子専門学校といった教育事業にも多額の寄付を行い、これらの学校を統括する財団法人大谷学園が設立されると理事としてその運営を支援しました。

顕彰

惣三郎の功績を称える記念碑が建立されています。昭和8年（1933年）7月には大角岑生撰文による「岩田惣三郎翁寿像」が、同年10月には「岩田惣三郎頌徳碑」が一宮市立奥中学校北舎西に竣工しました。

栄典

大正10年（1921年）10月12日に紺綬褒章を受章しています。

親族

岩田家は代々農業を営む家系でした。

父：岩田 常右衛門
母：岩田 利世
兄：岩田 常右衛門
甥：岩田 保太郎（兄・常右衛門の長男。大阪三品取引所監査役などを歴任）
養甥：岩田 常右衛門（岩田又四郎の次男。尾州銀行、岩田商業などの取締役、宝塚ホテル取締役兼支配人などを歴任）
長女：岩田 スミ（養子・正一の妻）
養子：岩田 正一（島津彦八の四男。岩田商事取締役などを歴任）
長男：岩田 松之助（岩田商事、中外綿業などの取締役）
孫：岩田 宗太郎（松之助の長男。甲子興業取締役などを歴任）
次女：岩田 つね（岩田悦次郎の妻）
三男：岩田 宗次郎（尾州銀行、岩田商事、大日本紡績などの取締役・会長。父から事業を引き継ぐ）
四男：岩田 千代三郎（会社員）
五男：岩田 金之助（大阪府田代豊の養子となる。岩田商事、甲子興業取締役）
子孫：岩田 彰一郎（アスクル株式会社創業者）

参考文献

岡村周量『黄金の渦巻へ』蒼天書房、1924年5月。
奥町教育会『岩田惣三郎翁』奥町教育会、1933年10月。
実業之世界社編輯局『財界物故傑物伝』 上巻、実業之世界社、1936年6月。
奥町教育会『奥町誌』奥町教育会、1936年9月。
鍋島高明『賭けた 儲けた 生きた ―紅花大尽からアラビア太郎まで』五台山書房、2005年4月。
人事興信所『人事興信録』（第3版、第4版、第5版、第6版、第7版、第8版、第9版）

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