岩絵具

岩絵具：日本画の伝統と進化

岩絵具は、鉱石を砕いて作られる粒子状の絵具で、日本画をはじめ、絵画、彫刻、工芸、建築など幅広い分野で古くから用いられてきた伝統的な顔料です。本稿では、主に日本画における岩絵具の特性、種類、歴史的背景について解説します。

岩絵具の特性

岩絵具は、顔料そのものに固着力がないため、絵を描く際には膠(にかわ)などの固着材を混ぜて使用します。指で丁寧に練り混ぜることで、絵具が画面に定着します。粒子の細かさは番数で表され、5番から13番、そして白（びゃく）など、数字が大きいほど粒子が細かくなります。粒子の粗さによって発色も異なり、粗いものは暗く鮮やかな色になり、細かいものは白っぽく明るい色になります。

天然岩絵具：自然が生み出す深み

天然岩絵具は、様々な鉱物を原料とし、古くから絵画に使われてきました。古墳壁画や絵巻物などからも、その歴史を垣間見ることができます。天然鉱物を原料とするため、色数は限られ、原色が多いのが特徴です。精製には機械や化学処理を用いないため、希少性の高い材料も多く、高価なものが多いのも事実です。

天然鉱物由来のため、不純物の混入や色調のばらつきもみられますが、それらがかえって独特の深みのある色合いを作り出しています。原料となる鉱物や精製方法の違い、沈殿による粒度調整、焼成による色の変化、水晶の添加など、様々な工夫によって、多彩な色合いが実現されています。

人工岩絵具：天然岩絵具の限界を超えて

天然岩絵具は、原石の希少性、高価格、有毒性の問題、扱いの難しさ、色調の少なさなど、いくつかの課題がありました。これらの問題点を克服するため、近代になって人工的な岩絵具が開発されるようになりました。

新岩絵具

新岩絵具は、人工的に作られた色の塊である「新岩」を粉砕・精製して作られた岩絵具です。簡単に言うと、着色ガラスの粉末です。新岩はフリットと呼ばれるガラス質に金属酸化物を混ぜ、700～1000度で焼成して作られます。耐久性に優れ、安定した品質と豊富な種類が特徴で、日本画の歴史に大きな影響を与えました。しかし、天然岩絵具と比べると、色合いの深みではやや劣ると言われています。また、天然岩絵具のように焼成によって色の変化は起こりません。第二次世界大戦後、岩群青や岩緑青の代替として開発が進められ、1952年には市販されるようになりました。現在、日本は新岩絵具の材料市場において、世界をリードする地位を確立しています。

合成岩絵具

合成岩絵具は、水晶末や方解石末などの粒子に、顔料や染料を付着させて作られた岩絵具です。天然岩絵具にはない蛍光色やパステルカラー、洋画顔料なども存在しますが、耐光性に劣る場合があります。同じ種類の合成岩絵具同士であれば比重が同じなので、直感的に混色できます。

泥絵具・水干絵具

泥絵具、または水干絵具と呼ばれるものは、岩絵具に比べて粒子が細かく、厚塗りでき、被覆力が高いのが特徴です。マットな塗面が得られます。一般的には胡粉や白土を染料で着色して作られます。ただし、精度の低いものを指す傾向があり、現代では「泥絵具」という呼称はあまり使われなくなっています。

まとめ

岩絵具は、その歴史と多様な種類、そして表現方法によって、日本画に独特の深みと美しさをもたらしてきました。天然岩絵具の伝統と、近代に開発された人工岩絵具の技術革新によって、日本画の可能性はさらに広がり続けています。

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