胡粉

胡粉：歴史と技法から紐解く日本の伝統顔料

胡粉（ごふん）は、古くから日本画や工芸品などに用いられてきた白色顔料です。現在では、主に貝殻を原料とする炭酸カルシウムを主成分とする顔料を指し、その淡い色合いから、他の顔料を混ぜ合わせるための素材としても「具（ぐ）」と呼ばれています（例：具墨）。

歴史：鉛白から貝粉へ、そして現代へ

「胡粉」という名称は、中国の西方から伝わったことに由来します。しかし、その歴史を紐解くと、鉛白と貝粉の両方が古くから使用されていたことがわかります。

例えば、天平六年（734年）の『正倉院塵芥文書』には「胡粉下塗料」の記述があり、天平勝宝四年（752年）の東大寺大仏開眼会に作られた伎楽面の白色には牡蠣殻や他の貝殻が使用されていました。一方、承平年間（931年～938年）に編纂された『倭名類聚抄』には、錫を焼いて作る鉛白（塩基性炭酸鉛）を指す記述も存在します。12世紀の文献では、貝殻を焼いて作った胡粉の記述も見られます。

中国の文献『天工開物』（1637年）には、鉛白の一種である韶粉（しょうふん）の記述があり、甘粛省や広東省で製造されていたことがわかります。また、日本の文献『物類品隲』（1763年）には、白粉や胡粉として、方書（処方箋）では白粉、絵画では蛤粉を用いると記されており、従来の説とは異なり、貝殻を焼いた胡粉は室町時代以降から用いられたわけではないことが示唆されています。

材料：貝殻の種類と選別

現在、貝粉の胡粉に使用される貝殻としては、白色度が高いハマグリが好まれますが、加工のしやすさからカキやホタテの貝殻も用いられています。これらの貝殻は食用貝と同じ種類ですが、より白色度の高い貝殻が各地から探し求められています。

製法：風化と粉砕

従来の文献には「貝を焼く」とありますが、現代の製法は異なります。現代では、貝殻を天日に晒し、数ヶ月から数十年かけて風化させます。貝殻の硬さによって風化に必要な期間は異なり、ハマグリなどの硬い貝殻はより長い期間を要します。風化させた貝殻を粉砕し、水を加えて粘土状にした後、板の上に延ばしてさらに日干しすることで胡粉が完成します。

まとめ

胡粉は、長い歴史を持つ日本の伝統顔料です。その歴史は鉛白から始まり、貝粉へと移り変わり、現代においても、独特の製法と素材によって生み出されています。日本画の繊細な表現に欠かせない存在であり、今後もその伝統が受け継がれていくことでしょう。

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