島村利正

島村利正は、1912年3月25日に長野県上伊那郡高遠町（現在の伊那市）で、商家を営む家庭の長男として誕生しました。しかし、家業を継ぐことを望まず、1926年に高遠実業補習学校（現在の長野県高遠高等学校）を中退し、家を飛び出します。奈良へ向かった島村は、古美術写真出版社である飛鳥園に身を寄せ、小川晴暘の薫陶を受けました。また、この地で志賀直哉、武者小路実篤、瀧井孝作といった文学者たちと親交を深め、文学への造詣を深めていきました。1931年には正則英語学校を卒業しています。

文学の道を志す一方で、島村は1941年に『高麗人』、1943年には『暁雲』で芥川賞候補となります。しかし、戦時中は撚糸工業会社に勤務し、1955年には自ら会社を設立し代表取締役となります。しかし、1962年に会社は倒産。これを機に、島村は作家業に専念することになります。

若い頃から釣りを趣味としていた島村は、自然を愛する心を作品に反映させていきました。1975年には『青い沼』で平林たい子文学賞を受賞。1979年には『妙高の秋』で翌年に読売文学賞を受賞するなど、晩年にかけて数々の文学賞を受賞しています。

1981年11月25日に生涯を終えた島村利正ですが、没後20年の2001年には、全四巻からなる『島村利正全集』が未知谷から刊行されました。

主な著作

高麗人 (1941年、人文書院)
残菊抄 (1957年、三笠書房)
碧水館残照 (1972年、講談社)
奈良登大路町 (1972年、新潮社)
青い沼 (1975年、新潮社)
秩父愁色 (1977年、新潮社)
桐の花 (1978年、日本経済新聞社)
妙高の秋 (1979年、中央公論社)
奈良飛鳥園 (1980年、新潮社)
霧のなかの声 (1982年、新潮社)
清流譜 (1982年、中央公論社)
多摩川断想 (1983年、花曜社)
島村利正全集 全4巻 (2001年、未知谷)
奈良登大路町・妙高の秋 (2004年、講談社文芸文庫)

参考文献

* 六川宗弘『失われた「香薬師」の記憶 －島村利正の「妙高の秋」をめぐって―』高遠郷土研究会誌「高遠」45号、2016年2月、pp.107-137

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