島津久治

島津久治：幕末の激動期を生きた薩摩藩士の悲劇

島津久治は、幕末期を駆け抜けた薩摩藩の重要な人物です。島津久光の次男として生まれ、兄は後の薩摩藩主・島津忠義（茂久）にあたります。宮之城島津家15代当主として、幼少期からその身分は藩内において特別なものでした。史料では「島津図書」の名で多く記録されています。

嘉永5年（1852年）、島津久宝の養子となり家督を相続、久宝の娘と結婚しました。その後、文政2年（1855年）には海防総頭取に任命され、薩摩藩の沿岸防衛を担う要職に就きます。文久3年（1863年）の薩英戦争では、兄・茂久の代理として薩摩藩海軍を指揮しました。さらに、元治元年（1864年）の禁門の変でも兄の代理として皇居警衛総督を務め、同年には薩英戦争講和使節代表として長崎へ赴くなど、若くして重要な任務を次々とこなしました。これは、久光の次男であり、藩主の弟という出自が大きく影響していると考えられます。

慶応2年（1866年）には家老に任ぜられ、藩政の中枢を担う立場にありました。しかし、この頃、薩摩藩内では倒幕派が勢力を強めていました。久治は孝明天皇の基本方針に沿った公武合体派の立場をとっており、倒幕派主流の藩内においては次第に孤立していきました。慶応3年（1867年）、小松帯刀や桂久武ら強硬論が台頭する中、重職の中でただ一人慎重論を唱え反論したとされています。

明治元年（1868年）の戊辰戦争では、私領4番隊を会津藩攻撃に向かわせましたが、自身は参戦しませんでした。この行動は、若手藩士から「軟弱」と見なされ、川村純義らに藩主の前で詰問される屈辱を味わうことになります。

明治2年（1869年）2月、家老を辞職し、同年8月には私領15750石を藩に返上、代わりに家禄1500石を賜りました。その後は国政や藩政には関与せず、関心のあった教育事業に携わります。明治4年（1871年）、所領のあった吉野村（現鹿児島市吉野町）に第12郷校が建設された際には、建材の提供などを行いました。

明治5年（1872年）正月、僅か32歳で急死しました。公式記録では急病とされていますが、西郷隆盛から大久保利通への書簡には「ピストル自殺」と記されており、死因については謎が残されています。家老辞職後、孤立感から気鬱になり、父・久光もその事を案じていたと伝えられています。幕末の勝者側、それも藩主の一門という立場でありながら、あまりにも悲劇的な最期でした。墓所は当初、鹿児島市の天神山墓地に設けられましたが、戦後になって子孫により歴代宮之城家墓所である宗功寺に移転されました。

久治には前年に生まれたばかりの長男・長丸がいました。長丸は成長して叔父の娘と結婚し、明治30年（1897年）には男爵に叙せられ華族となりました。大正5年（1916年）、久治は従四位を追贈されています。島津久治の生涯は、激動の幕末を生き抜いた一人の藩士の栄光と悲劇、そして謎に満ちた物語として、後世に語り継がれるべきものです。NHK大河ドラマ『篤姫』では加治将樹氏が演じています。

もう一度検索