島津保次郎

島津保次郎について

島津保次郎（しまづやすじろう、1897年6月3日 - 1945年9月18日）は、日本の映画監督であり、大正から昭和期にかけて小市民映画の先駆けとして知られています。松竹蒲田撮影所に所属し、蒲田調と呼ばれる独自のスタイルを確立しました。彼の監督としてのキャリアは、多様なテーマと独特の写実感に基づいています。

来歴

東京市日本橋に生まれた島津は、父親が営む海苔商の家庭で育ちました。正則英語学校に通う傍ら、映画への情熱を抱き続け、学校をさぼって映画館に足を運ぶ日々を送っていました。映画監督を目指して、逓信省の宣伝映画のシナリオ公募に応募し、入選の経験を持つなど、その才能は早くから見込まれていました。卒業後は実家を手伝いながら、松竹の映画事業に関心を持ち、友人の紹介で松竹キネマに入社します。

1920年には松竹キネマ研究所に移り、ここで多くの若手映画人と共に学びました。彼の監督デビュー作は、1921年の『寂しき人々』ですが、公開されることはありませんでした。その後、再び蒲田撮影所に戻り、牛原虚彦の『剣舞の娘』で助監督を務め、数年後には自らの作品を手掛けるようになりました。

1923年にハウプトマンの作品を原作にした『山の線路番』が評価され、その後、関東大震災の影響を受けつつ、松竹蒲田の主力監督として多くの作品を残しました。蒲田調と呼ばれるスタイルは、庶民の生活や日常をリアルに描くものであり、島津はその先駆けとしての地位を築いていきます。1924年には『日曜日』を発表し、その後も様々な作品で観客の心をつかみました。

映画スタイルと功績

島津は、日常生活を生き生きと活写した作風が特徴です。トーキー時代に入ると、彼の能力はさらに開花し、『上陸第一歩』で初めてトーキー作品を手がけます。『嵐の中の処女』や『隣の八重ちゃん』など、彼の作品は若々しさや爽快感で高く評価されました。また、『その夜の女』では「ネオ・リアリズム」と呼ばれる新しい波が話題となりました。

メロドラマの名手としても知られ、作品は観客の支持を集めました。谷崎潤一郎の『春琴抄』を原作にした『お琴と佐助』は、リアリティにあふれた作品として多くの評価を受けました。島津は松竹から東宝に移籍後も、多くの大作を手掛け、特に『光と影・前後篇』『緑の大地』は彼の名作として知られています。

晩年と影響

1945年には胃がんにより亡くなりますが、彼が遺した映画は多くの後進に影響を与えました。島津の門下からは、映画監督の五所平之助や吉村公三郎などが輩出されており、彼のスタイルは後の日本映画に大きな足跡を残しました。島津自身の実子である島津昇一も映画監督として活動しましたが、早世してしまいました。

島津保次郎の映画は、庶民の生活を題材にしたリアルで親しみやすい作品が多く、彼の監督としての才能と影響力は日本映画史において極めて重要な位置を占めています。彼の作品は今なお多くのファンに愛され、映画界における重要な存在として記憶されています。

もう一度検索