嵐作戦

嵐作戦：クロアチア紛争の転換点

嵐作戦（Operacija Oluja）は、1995年8月にクロアチア軍が、クロアチア領内に存在したクライナ・セルビア人共和国を奪還するために行った大規模な軍事作戦です。この作戦は、クロアチア紛争の重要な転換点となり、その後の和平交渉を大きく進展させる要因となりました。

作戦の背景

1991年以降、クライナ・セルビア人共和国はセルビア人分離主義勢力によって実質的に独立した状態にあり、クロアチア政府の支配が及んでいませんでした。1990年代初頭、セルビア人勢力はクロアチアからの分離独立を宣言し、ユーゴスラビア人民軍の支援を受けながら、クロアチア政府と武力衝突を繰り返していました。

クライナ・セルビア人勢力は、支配地域においてクロアチア人市民に対する民族浄化を行い、1993年初頭までにほぼ全ての非セルビア人市民を排除しました。国連は監視団を派遣し、国連保護地域を設定しましたが、セルビア人勢力による攻撃は止みませんでした。

1992年1月に停戦合意が成立したものの、セルビア人勢力は周囲のクロアチア人の町を包囲するなど、攻撃を継続しました。1995年5月にはザグレブ・ロケット攻撃を行い、多数の死傷者を出すなど、紛争は依然として深刻な状況にありました。

作戦の経過

1995年5月、クロアチア軍は稲妻作戦を実行し、クライナ・セルビア人勢力の一部を制圧しました。その後、クライナ・セルビア人勢力はZ-4計画と呼ばれる和平案を拒否し、クロアチアからの完全分離とスルプスカ共和国との統合を目指しました。

1995年7月、クロアチア軍は'95夏作戦を実行し、クライナ・セルビア人共和国の首都クニンとスルプスカ共和国を結ぶ幹線道路を制圧しました。これにより、クライナ・セルビア人勢力は補給路を断たれ、首都クニンはクロアチア軍によって包囲されることとなりました。

8月4日未明、クロアチア軍は嵐作戦を発動し、300キロメートルの前線に沿って15万人の兵力を投入し、クライナ・セルビア人勢力への攻撃を開始しました。クライナ・セルビア人勢力の指導者たちは作戦開始前に国外へ脱出し、軍は混乱状態に陥りました。

クロアチア軍は各地でクライナ・セルビア人勢力を破り、8月5日にはクニンを制圧しました。クライナ・セルビア人勢力の兵士や市民は、クロアチア軍の攻撃を避けて大量に避難を開始し、ボスニア・ヘルツェゴビナやセルビアへと向かいました。

8月7日、クロアチア軍はボスニア・ヘルツェゴビナ軍と合流し、クライナ・セルビア人勢力の残存部隊を掃討しました。8月8日には最後の抵抗拠点も制圧され、嵐作戦はクロアチア軍の勝利に終わりました。

作戦の影響

嵐作戦の結果、クライナ・セルビア人共和国は崩壊し、クロアチアの領土保全が回復しました。しかし、作戦によって多数のセルビア人住民が家を失い、難民となるなど、深刻な人道危機が発生しました。

欧州連合の旧ユーゴスラビア担当特使は、この作戦を「これまでバルカンで見た中で最も効果を発揮した民族浄化」と呼びました。一方、クロアチア政府は、主権国家が自国の領土を守る権利に基づいて作戦を正当化し、戦争犯罪に加担していないセルビア人は帰還できると主張しました。

嵐作戦は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の終結にも大きな影響を与えました。セルビア人勢力の弱体化と国際社会の和平への圧力が高まった結果、デイトン合意が締結され、紛争は終結に向かいました。

クロアチアでは、8月5日を「勝利と祖国への感謝の日」として国民の祝日としています。しかし、作戦によって家を失ったセルビア人難民の中には、いまだに故郷への帰還を望んでいる人々もいます。

戦争犯罪と難民問題

嵐作戦後、クロアチア軍はセルビア人市民に対する戦争犯罪を行ったとして、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷（ICTY）によって訴追されました。ICTYは、クロアチア軍がセルビア人市民の財産を大規模に破壊・略奪し、数百人のセルビア人を殺害または行方不明にしたと認定しました。

また、嵐作戦によって発生した難民問題は、紛争後も長く尾を引きました。セルビア人難民の中には、迫害を恐れてクロアチアへの帰還をためらう人々が多く、不動産を失ったり、雇用や社会的な権利において差別的な扱いを受けたりするなどの問題も発生しました。

まとめ

嵐作戦は、クロアチア紛争の終結に大きく貢献した軍事作戦でしたが、同時に多くの犠牲者を生み、深刻な人道危機を引き起こしました。作戦の評価は、クロアチア人とセルビア人の間で大きく異なっており、歴史認識の問題としても未だに議論が続いています。

作戦から年月が経過した現在でも、難民問題や戦争犯罪の責任追及など、解決すべき課題が残されています。紛争の教訓を活かし、民族間の和解と共存を目指す努力が求められています。

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