嶋中事件

嶋中事件（しまなかじけん）

嶋中事件とは、1961年2月1日に起こった右翼団体による言論弾圧目的のテロ事件です。この事件は、深沢七郎の短編小説「風流夢譚」をきっかけに発生しました。

事件の背景

事件の発端は、1960年11月に雑誌『中央公論』に掲載された深沢七郎の小説「風流夢譚」にありました。この短編では、皇太子夫妻の斬首や、天皇・皇后の首のない胴体が描かれ、さらに昭憲皇太后が下品な言葉を発する描写があったため、「不敬」として右翼の強い反発を招きました。

右翼団体の大日本愛国党に所属する少年Kは、これに激怒し、2月1日に中央公論社の社長である嶋中鵬二の自宅に侵入し、家政婦らを襲撃しました。

事件当日、侵入したKは家政婦にナイフを突きつけ、抵抗した50歳の家政婦を刺し、最終的に彼女は死亡しました。Kはその後、逃亡し、翌日自首しています。この事件によって、言論は一気に萎縮し、皇室に関する発言が大きな影響を受けることとなりました。

小説の内容と反響

深沢七郎の「風流夢譚」は、主人公が夢で見た光景を描いており、非常にシュールなタッチで展開されますが、その内容は過激で、不敬だという声が多く上がりました。この小説の発表は皇太子夫妻の御成婚直後であり、多くの人々が反発したのは当然でした。

発表された直後の批判の中には、著名な評論家や作家の賛同を得る意見もあったが、大部分は否定的でした。しかし、深沢は後に「未来永劫封印する」と表明し、復刊の要望を拒否しました。

右翼の反発と事件の影響

事件が発生した後、地方や国際的な怒りが広がり、右翼団体からの抗議や威圧は収まらず、中央公論社に対する攻撃が続きました。ついには、社の編集方針が変化し、言論の自由に対する自主規制が強められることとなりました。

この事件は、特に太平洋戦争後の日本における言論の自由や皇室報道を論じる際の重要な事例として記憶されます。その後も右翼によるテロが続き、当時の社会状況も反映された結果であるとも言われています。

事件の後日談

事件を引き起こした少年Kは、懲役15年の判決を受けます。事件後の彼は精神的に不安定な状態だったと伝えられています。彼を指導した右翼団体の責任問題も議論になりましたが、多くの右翼団体はKの行動を全否定し、責任の重さを問われた結果となりました。

この事件は、言論の自由に対する暴力がどのように作用するとともに、自由な表現と安定した社会とのバランスがいかに難しいかを示す出来事として、今日でも多くの議論を呼んでいます。

また、事件後、深沢七郎自身の小説は封印され、後に海賊版が流布されることになりますが、正式発行された書籍にはテーマが持つ敏感さからなかなか戻らず、彼は「放浪の作家」として記憶されました。

このように、嶋中事件は日本の言論界に大きな影響を及ぼし、言論と権力の関係、およびその後の日本社会における表現の自由への影響を考えるうえで重要な示唆を提供します。

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