嶋田啓一郎

嶋田啓一郎

嶋田 啓一郎（しまだ けいいちろう、1909年12月5日 - 2003年9月24日）は、日本の社会福祉学界において、その思想と実践を通じて大きな足跡を残した人物です。石川県に生まれた嶋田は、生涯を通じて社会福祉の本質を探求し続けました。

彼は、同時代の著名な社会福祉学者である岡村重夫や孝橋正一と並び称される、日本の社会福祉学を代表する存在として広く認識されています。長年にわたり同志社大学の教授を務め、教育者としても多くの後進を育てました。

嶋田の学問的探究の中心には、社会福祉が依拠すべき根源的な価値、すなわち哲学的な問いがありました。彼は「社会福祉の価値論」を探求することこそが、その学問体系を確立する上で不可欠であると考えました。そして、この価値論を基盤として、特に人間一人ひとりの尊厳と権利の尊重を深く重視する「社会福祉力動論」を展開しました。これは、社会福祉を単なる制度や技術として捉えるのではなく、社会を変革し、個人のエンパワメントを促進する実践的なエネルギーとして捉え直そうとする試みであり、当時の社会福祉学界に新たな視点をもたらしました。

学究活動に加えて、嶋田は社会福祉の実践現場にも深く関わりました。特に、社会運動家であり、協同組合運動の指導者として知られる賀川豊彦の思想に強く影響を受け、その薫陶を受けた人物の一人です。嶋田は、賀川の後継者として、灘生活協同組合の理事を務めました。この経験を通じて、彼は協同組合の運営という具体的な実践の場に深く関与し、自身の社会福祉理論が現実社会でどのように機能しうるかを探求しました。理論研究と実践活動の双方に身を置くことで、社会福祉の本質をより深く理解し、学説に厚みを与えることができました。

また、嶋田は日本のキリスト教界における社会福祉活動の発展にも貢献しました。竹内愛二と共に、キリスト教精神に基づいた社会福祉の実践と研究を推進するための学術団体、日本キリスト教社会福祉学会の設立に尽力しました。この学会は、信仰と社会福祉を結びつけ、独自の視点から社会課題に取り組むための重要な拠点となりました。嶋田の働きは、日本のキリスト教社会福祉の歴史において、その基礎を築く上で不可欠なものであったと言えます。

彼の思想は、多くの著作を通じて発表されました。主な編著には、『社会福祉体系論』や『社会福祉の思想と人間観』などがあり、これらの著作は、彼の価値論や力動論、あるいは人間観といった哲学的な基盤を深く理解するための重要な資料となっています。これらの著作は、後続の研究者や実践家たちに大きな影響を与え続けています。

嶋田は、キリスト教徒としての深い信仰をその社会福祉学研究の根幹に据えていました。人間の尊厳や隣人愛といったキリスト教の教えは、彼の価値論や人権思想の形成に大きな影響を与えたと考えられます。長年にわたる社会福祉学への貢献と、信仰に基づく献身的な活動が認められ、1994年にはキリスト教功労者として顕彰されました。

このように、嶋田啓一郎は、単なる学説の提唱者としてだけでなく、社会福祉の価値を深く探求した哲学者であり、理論を実践の場で検証した実務家であり、さらに信仰に基づいた社会活動にも貢献した多方面にわたる活動家でした。彼の生涯と業績は、日本の社会福祉学の発展において、理論と実践、そして思想の重要性を示す貴重な事例として、今日なお語り継がれています。

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