川崎寿彦

川崎寿彦：英国詩から文化史へ至る知の軌跡

川崎寿彦（1929年-1989年）は、日本の英文学者として、17～18世紀の英国詩研究で名を馳せ、その後の研究活動においては、庭園や文化史へとその関心を広げ、多大な貢献を果たしました。東京生まれ、弟は作家の川崎彰彦です。

初期の研究と専門分野

名古屋大学文学部教授として教鞭を執った川崎は、初期においては17～18世紀の英国詩を専門として研究活動を行いました。緻密な分析と深い洞察に基づいた研究は、同時代の研究者たちに大きな影響を与えました。彼の専門知識と深い教養は、多くの学生を魅了し、後進の育成にも大きく貢献しました。

研究分野の拡大と主要著作

しかし、川崎の関心は、やがて英国詩の枠を超えて、庭園や文化史へと広がっていきました。特に、英国庭園に関する研究は、彼の代表作『庭のイングランド』をはじめとする多くの著作に結実しました。この著作は、単なる庭園の歴史解説にとどまらず、英国文化の象徴としての庭園の役割や、その背後にある社会・歴史的背景を深く掘り下げたものであり、広く一般の読者にも高い評価を受けました。

彼の著作は多岐に渡り、『ニュークリティシズム概論』『分析批評入門』といった英文学研究の基礎を築く著作から、『マーヴェルの庭』『鏡のマニエリスム』といった特定のテーマを深く掘り下げた専門的な研究、『楽園と庭 イギリス市民社会の成立』といった社会史的な視点を取り入れた著作まで、多様な角度から英国文化を深く探究しています。また、『森のイングランド ロビン・フッドからチャタレー夫人まで』のように、文学作品を通じて森と人間の関わりを考察するなど、独特の視点と幅広い知識を駆使した著作も発表しています。

没後も『英詩再入門』『薔薇をして語らしめよ 空間表象の文学』『楽園のイングランド パラダイスのパラダイム』など、多くの遺稿が刊行され、その研究の深さと幅広さが改めて示されました。これらの著作は、現在でも英文学研究者や文化史研究者にとって貴重な資料として活用されています。

受賞歴と評価

1986年には「英文学における庭園など空間形象の研究」に対して中日文化賞を受賞し、その研究の卓越性が広く認められました。多岐にわたる著作と、没後も続く影響力は、川崎寿彦が日本の英文学研究に与えた貢献の大きさを物語っています。彼の研究は、単なる学問的成果にとどまらず、英国文化への深い理解と、鋭い洞察力を示すものであり、現代の私たちにとっても多くの示唆を与えてくれます。

略歴と学歴

川崎寿彦は静岡高校を卒業後、1953年に京都大学文学部を卒業、その後ウィスコンシン大学大学院を修了しました。名古屋大学文学部教授に就任し、その職務に励む中で、1989年に逝去しました。

主要著書一覧

「ニュークリティシズム概論」
「分析批評入門」
「ダンの世界 天上の女と地上の神」
「マーヴェルの庭」
「鏡のマニエリスム ルネッサンス想像力の側面」
「庭のイングランド 風景の記号学と英国近代史」
「楽園と庭 イギリス市民社会の成立」
「イギリス文学史入門」
「森のイングランド ロビン・フッドからチャタレー夫人まで」
「森と人間 2000年」
「英詩再入門」
「薔薇をして語らしめよ 空間表象の文学」
「楽園のイングランド パラダイスのパラダイム」

共編著

「新しい詩を読む 現代イギリス・アメリカの詩」
「T・S・エリオット」
「イギリス・ロマン主義に向けて 思想・文学・言語」
* 「生と死の文化史 危機の生・豊饒の生」

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