川崎港海底トンネル

川崎港海底トンネルは、神奈川県川崎市川崎区に位置し、臨海部の千鳥町と東扇島という二つの重要な地区を結ぶ、川崎市道川崎駅東扇島線の一部を構成する海底トンネルです。

概要と構造

このトンネルは全長1,165メートルに及び、海面下に建設された水底トンネルです。その建設には、異なる工法が組み合わせて用いられました。海底部分は、あらかじめ陸上で製造されたトンネルの函体を海底に沈めて連結していく沈埋工法が採用されています。この工法は、軟弱な海底地盤や水深の深い場所でのトンネル建設に適しており、川崎港のような港湾部で効果を発揮します。一方、陸上部分は、地面を掘削して構造物を作り、その後埋め戻すオープンカット工法や、地盤の崩壊を防ぎながら掘削・構築を行う山留工法などが用いられています。

トンネル内の車両の制限速度は時速50キロメートルに設定されています。

歴史

川崎港海底トンネルの建設は1972年に開始されました。工事を経て1979年に完成・開通しましたが、当初は一般車両の通行は認められておらず、主に業務用の車両や関係者の利用に限られていました。その後、周辺地域の発展に伴い交通ニーズが高まり、1992年の川崎マリエン開業に合わせて、一般車両も通行できるようになりました。これにより、東扇島へのアクセスが大幅に改善されました。

さらに、1994年には首都高速湾岸線の東扇島出入口が供用を開始し、本トンネルは川崎市街地とこの出入口を結ぶ重要なアクセスルートとしての役割を担うようになります。この連携強化により、東扇島地区の物流や産業活動を支える基盤としての重要性が増しました。

過去には、2008年に微小な穴からの浸水によりトンネルの一部が冠水する事態が発生しましたが、薬剤注入などの処置により適切に止水されました。比較的新しい動きとしては、2021年に川崎市が周辺の共同溝などを含む液状化対策に向けた調査を進めています。

交通規制と周辺状況

川崎港海底トンネルは水底トンネルであるため、多くの水底トンネルと同様に、火災発生時のリスクなどを考慮し、深夜を除く時間帯では危険物を積載した車両の通行が禁止されています。これは近隣を通る首都高速湾岸線の川崎航路トンネルも同様の規制があるためで、現在、危険物積載車が東扇島と島外を行き来する際に利用できる公的なルートは、首都高速湾岸線を経由して大黒JCT方面へ向かう経路に限られています。

また、本トンネルから西へ約2キロメートル離れた場所には、JFEスチールが所有・管理する私道が存在します。この道路は水江町から東扇島を経由して扇島へと至るもので、水江町と東扇島間は「JFEスチール海底トンネル」、東扇島と扇島間は「扇島大橋」で結ばれています。しかし、こちらは企業の専用道路であり、一般車両は通行できません。

現在、川崎港周辺の交通量増加に対応し、通勤・帰宅時の渋滞緩和や、大規模災害発生時の代替ルート確保などを目的として、水江町と東扇島を結ぶ新たな橋の建設が進められています。

歩行者用トンネル

川崎港海底トンネルには、自動車が通行する上下線トンネルの間に、歩行者専用の通路が設けられています。この通路内では、「ここは、歩行者専用通路です。自転車は降りて通行してください。」というアナウンス放送が定期的に流されており、安全のため自転車に乗ったまま通行することは禁止されています。自転車を利用する際は、必ず降りて押して通行する必要があります。

なお、この歩行者用通路は、もともと車両用トンネルにおける緊急時の避難路として計画されたもので、当初は歩行者や軽車両の通行は認められていませんでした。現在の歩行者用トンネルの出入口は、車両用トンネルのそれとは異なる場所に設置されています。

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