川瀬慈

川瀬慈：学術と創作の融合、エチオピアを舞台に

川瀬慈氏は、1977年岐阜県生まれの文化人類学者です。現在、国立民族学博物館と総合研究大学院大学で教授を務めています。専門は映像人類学とアフリカ地域研究で、特にエチオピアの音楽文化、そしてその担い手である楽師や吟遊詩人たちに関する研究で広く知られています。

京都大学大学院で博士号を取得後、日本学術振興会の支援を受け、マンチェスター大学でも研究活動を行いました。その後、国立民族学博物館に助教として着任、准教授を経て、2024年には教授に昇進しています。

学術研究に加え、川瀬氏は、エチオピアの人々の暮らしや文化を多角的に捉え、詩、小説、映画、パフォーマンスなど、多様な表現方法を用いた創作活動も精力的に行っています。その活動は、既存の学問分野の枠組みにとどまらず、学際的なアプローチを特徴としています。

川瀬氏の映像作品は、国内外の主要な民族誌映画祭で高く評価され、上映されてきました。主な作品として、『Room 11, Ethiopia Hotel』、『僕らの時代は』、『ラリベロッチ－終わりなき祝福を生きる－』、『精霊の馬』、『吟遊詩人 ー声の饗宴ー』などがあります。これらの作品は、エチオピアの人々の日常や文化、歴史を、鮮やかに、そして深く描き出しています。

これまでに発表した著作も多く、学術的な研究成果だけでなく、エチオピアの文化や人々への理解を深めるための読み物としても高く評価されています。主な著書には、『ストリートの精霊たち』(世界思想社, 2018年)、『エチオピア高原の吟遊詩人 うたに生きる者たち』(音楽之友社, 2020年)、『叡智の鳥』(Tombac／インスクリプト, 2021年)、『私の中の野生』(本屋B&B デジタルリトルプレス, 2021年)、『見晴らしのよい時間』(赤々舎, 2024年)、『エチオジャズへの蛇行』(音楽之友社, 2024年)などがあります。編著書も多数手がけており、映像人類学やアフリカ研究の分野に多大な貢献をしています。

その活動は高く評価され、数々の賞を受賞しています。2008年にはイタリア・サルデーニャ国際民族誌映画祭で「最も革新的な映画賞」を受賞。2013年には日本ナイル・エチオピア学会高島賞、2019年には鉄犬ヘテロトピア文学賞、『ストリートの精霊たち』で受賞、2021年には大同生命地域研究奨励賞とサントリー学芸賞（芸術・文学部門）、さらに2022年には梅棹忠夫・山と探検文学賞などを受賞しています。

川瀬氏の活動は、学術研究と創作活動の垣根を越え、エチオピアの文化を世界に伝えることに大きく貢献しています。学界においても、映像人類学やアフリカ研究の分野を牽引する存在として、その活躍はますます期待されています。その多様な活動を通して、私たちはエチオピアの豊かな文化、そして人々の生き様を深く理解することができます。

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