川越車両センター

埼玉県川越市に所在するJR東日本首都圏本部の川越車両センターは、埼京線、川越線、そして八高線のうち高麗川から八王子までの区間で運用される車両を担う重要な役割を果たしています。その敷地は川越市並木を代表所在地としつつ、大部分が久下戸、一部が古谷本郷にまたがる広範囲に及びます。

立地と機能

この車両基地は、川越線の指扇駅と南古谷駅の間に位置しており、両駅から車両の出入りが可能です。特に、早朝や朝のラッシュ時には、指扇または南古谷を始発とする埼京線や川越線の列車が設定されています。車両を基地へ戻す際は、大宮駅や川越駅から回送列車として運転されています。

将来的な編成数の増加を見据え、当初から留置線を拡張できるよう広大な用地が確保されています。また、本線と基地への出入り口となる線の分岐点から南古谷駅にかけての約1.8kmの区間では、将来的な複線化用地も確保されており、その一部は既に留置線として活用されています。
車両センターの業務の一部は、JR東日本運輸サービスへ委託されています。

設備概要

川越車両センター内には、多岐にわたる機能を備えた設備が配置されています。

引き上げ線: 指扇方面に2線が設けられています。
留置線: 1番線から9番線までは、指扇・南古谷両駅からの出入庫が可能な留置線です。特に2番線と3番線の間、4番線と5番線の間には高所作業台が設置され、日常的な仕業検査が行われています。7番線と8番線は、4両編成を2本縦列で留置できるよう停止位置が調整されています。10番線から12番線以降は、指扇方面から入る行き止まり構造の留置線です。将来の拡張に備えたスペースとして、13番線から22番線、そして33番線も確保されています。23番線から29番線は主に予備車や夜間に入庫した車両が使用する留置線です。
検査・修繕設備: 30番線から32番線は車両洗浄線で、車両洗浄機や洗浄作業台を備えています。34番線は車輪転削線で、車輪の削正を行うための庫に繋がっています。35番線と36番線は交番検査（交検）を行うための線路で、車両の機能保全を実施する庫に繋がっています。37番線は車両の修理などを行う修繕線です。38番線は特殊な用途に用いられ、かつてはMue-trainや牽引車のクモヤ143形などが留置されていました。
安全対策: 構内の入換信号機は、触車事故を防ぐため、地面ではなく架線柱から吊り下げる構造が採用されています。

また、この車両センターでは、自区の車両だけでなく、大宮総合車両センター東大宮センターに所属する車両の車輪転削も請け負っています。

配置略号の変遷

川越車両センターに配置される車両には、所属基地を示す略号が記されています。現在の略号は「都ハエ」で、「都」はJR東日本首都圏本部を、「ハエ」は川越の電報略号（旧仮名遣い「かはごえ」に由来）を表します。

開設当初の国鉄時代には「北ハエ」（国鉄東京北鉄道管理局）が使用され、JR東日本発足後は「東ハエ」（東京圏運行本部など）を経て、2001年4月1日からは「宮ハエ」（大宮支社）となりました。現在の「都ハエ」略号は2022年10月1日から使用されていますが、一部車両の表記は「宮ハエ」のまま残っています。

歴史

川越車両センターの歴史は、埼京線の開業準備に遡ります。1982年7月1日に川越準備電車区として設置され、同年11月に建設工事が始まりました。1985年9月1日に川越電車区として正式に発足し、埼京線の開業と同日の同年9月30日に全面的な使用を開始しました。当初は山手線や赤羽線から転用された103系や、72系を改造した103系3000番台、牽引車のクモヤ143形などが配置されました。

JR東日本発足後、埼京線の延伸や八高線の電化に伴い、205系や209系といった新しい形式の車両が導入され、既存の103系は徐々に置き換えが進みました。特に埼京線用の205系は多数が配置され、後のりんかい線直通に備えた改造や、混雑緩和のための6扉車組み込みが行われました。

2013年からはE233系7000番台の導入が始まり、埼京線の主力車両が世代交代しました。これにより205系は予備車を残して運用を終え、その一部は海外譲渡や他線区への転用、廃車となりました。川越線・八高線用の103系（3000・3500番台）や209系（3000・3100番台）も、老朽化やワンマン運転導入に伴い、E231系3000番台や209系3500番台といった改造車両によって置き換えられ、2022年までにその姿を消しました。牽引車のクモヤ143形も2019年に廃車となっています。

現在の配置車両（2023年4月1日現在）

E233系7000番台: 10両編成38本、計380両が配置され、埼京線、川越線（川越-大宮間）、りんかい線、相鉄線（相鉄新横浜線・本線）で運用されています。拡幅車体で定員が増加しています。
209系3500番台: 4両編成5本、計20両が配置されています。川越線（川越-高麗川間）と八高線（高麗川-八王子間）でE231系3000番台と共通運用されており、ワンマン運転に対応しています。また、技術試験車「MUE-Train」（6両編成1本）も配置されています。
* E231系3000番台: 4両編成6本、計24両が配置されています。川越線（川越-高麗川間）と八高線（高麗川-八王子間）で209系3500番台と共通運用されており、元中央・総武緩行線用E231系0番台を改造した車両で、ワンマン運転やドアボタン設置、耐雪ブレーキ装備などの改造が施されています。

その他の入区車両

定期的な配置はありませんが、東京臨海高速鉄道の70-000形電車が夜間滞泊で入庫することがあります。また、相模鉄道の12000系電車も、乗務員訓練やダイヤ乱れ発生時の臨時回送として入庫し、夜間停泊する場合があります。

武蔵浦和派出（閉所）

かつては武蔵浦和駅構内に当センターの派出所が設けられ、検査係員が常駐していました。2001年に松戸電車区から移管されたもので、埼京線や武蔵野線の車両に不具合が発生した場合の応急処置を行い、列車運行への影響を最小限に抑える役割を担っていました。様々な形式に対応するため、職員の技術向上や継承にも努めていましたが、2022年3月31日をもって閉所され、業務は赤羽派出所に引き継がれています。

荒川橋梁が抱える課題

川越車両センターの建設地選定には、東京都市部や既存の高崎線沿線での用地確保が困難であったという背景があり、比較的容易に土地が得られる川越線の田園地帯が選ばれました。しかし、この立地のため大宮方面とは荒川を挟んで西側に位置しており、入出区に利用する荒川橋梁が構造上、強風の影響を受けやすいという課題があります。強風による運転見合わせや徐行が発生すると、車両の出し入れができなくなり、運行本数の減少や混雑率の増加を招きます。さらに、この問題は埼京線や川越線、八高線だけでなく、相互直通運転を行っているりんかい線や相鉄線、そして山手貨物線を共有する湘南新宿ラインなど、広範囲な鉄道路線に連鎖的なダイヤの乱れを引き起こす可能性があります。現状の対策としては、荒川橋梁の防風対策強化が進められています。地元自治体からは川越線の複線化要望も出ていますが、車両センターの移転も含め、莫大な費用や用地確保の問題から具体的な検討には至っていない状況です。

川越車両センターは、首都圏の重要な鉄道路線を支える車両基地として、その歴史と機能、そして立地上の課題を抱えながら日々の業務を行っています。

もう一度検索