巨福呂坂

巨福呂坂（こぶくろざか）：鎌倉の歴史を刻む古道

巨福呂坂は、神奈川県鎌倉市に位置する切通しで、鎌倉七口の一つとして知られています。別名、小袋坂とも呼ばれ、鶴岡八幡宮の裏手、雪ノ下地区から山之内（現在のJR北鎌倉駅付近）を結ぶ道として、古くから鎌倉の重要な交通路でした。

鎌倉時代の記録に見る巨福呂坂

鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』には、巨福呂坂に関する記述が複数見られます。貞応3年（1224年）には、四角四境祭という儀式に関する記述があり、その中で「北山内」という地名が登場します。これは、後の文暦2年（1235年）の記録に登場する「小袋坂」と同一、または近辺の場所を指すとされています。伝承によれば、現在の北鎌倉駅近くの高台にある八雲神社が、この「山内」の鎮守として建てられたと言われています。

一般的には、仁治年間に北条泰時が命じて作らせたとされる切通しですが、『吾妻鏡』には「山内の道路を造らる」という記述があるものの、それが現在の巨福呂坂を指すかは明確ではありません。ただし、その工事の理由として「険しい場所であるため、往来が困難である」と記されています。

その10年後には、北条時頼が「山内並びに六浦等の道路」の工事を命じたという記録があります。これは、以前に北条泰時が作った道路が崖崩れなどで埋もれてしまったため、再び往来を容易にするための工事であったとされています。

これらの記録から、巨福呂坂は鎌倉時代から重要な道であり、整備が繰り返されてきたことが伺えます。

鎌倉北条氏滅亡の戦いと巨福呂坂

元弘3年（1333年）の鎌倉の戦いでは、新田義貞率いる倒幕軍と鎌倉幕府軍がこの地で激戦を繰り広げたと伝えられています。『太平記』には、新田軍が巨福呂坂方面に軍勢を派遣したことが記されています。一方、鎌倉軍は赤橋守時が「洲崎」に向かったとされていますが、「洲崎」は巨福呂坂の西方にある古名と考えられています。

江戸時代の記録と変遷

江戸時代初期の文献には、「亀ヶ井坂」と「小袋坂」が区別して記述されています。その後、徳川光圀の「鎌倉日記」において、亀ヶ井坂が「亀ヶ谷坂」、小袋坂が「巨福呂坂」と記述されるようになり、現在に至っています。

江戸時代後期には、1708年の大地震で巨福呂坂が倒壊したり、建長寺の僧侶が坂道を掘り下げたりする工事が行われたことが記録されています。また、鶴岡八幡宮の僧侶が峰の高さを掘り下げる工事を申し入れたという記録も残っています。

明治時代以降の巨福呂坂

明治時代の地図を見ると、巨福呂坂の旧道は、鶴岡八幡宮の西の階段の下から始まり、横須賀水道トンネルの出口付近を通っていたことがわかります。その後、明治政府によって新たな道が開かれ、現在の車道と同じ位置になりました。

大正時代には横須賀水道がこの峠を通り、トンネルが掘られました。その後、関東大震災で道が崩落しましたが、拡張工事を経て車両の通行が可能となりました。そして、1993年には、景観に配慮した現在の巨福呂坂洞門が建設されました。

巨福呂坂は、1969年に国の史跡に指定されており、鎌倉の歴史を今に伝える貴重な遺産となっています。

まとめ

巨福呂坂は、鎌倉時代から現代に至るまで、鎌倉の歴史とともに歩んできた古道です。その道は、戦乱の舞台となり、人々の生活を支え、そして美しい景観を作り出してきました。史跡として保存されている巨福呂坂を訪れ、鎌倉の歴史と文化に触れてみてはいかがでしょうか。

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