巽聖歌

巽聖歌（たつみ せいか）

巽聖歌（1905年2月12日 - 1973年4月24日）は、日本の児童文学者、歌人であり、本名を野村七藏（のむら しちぞう）と言います。彼は、童謡「たきび」の作詞者として広く知られています。

生涯

生い立ちと文学との出会い

1905年、岩手県紫波郡日詰町（現在の紫波町）で、鍛冶屋の7人兄弟の末っ子として生まれました。小学校卒業後は家業を手伝いながら、14歳で鈴木三重吉が創刊した児童雑誌『赤い鳥』に触れ、童謡や童話の創作に興味を持つようになりました。16歳からはキリスト教の教会に通い始め、20歳で洗礼を受け、クリスチャンとなりました。ペンネーム「聖歌」は、この信仰に由来します。

上京と文学活動の開始

1923年、自作の童話を児童雑誌『少年』の編集長であった安倍季雄に送り、時事新報社への就職を希望しますが、年齢を理由に保留となります。その後、横須賀で働きながら『赤い鳥』などに投稿を続け、1924年に時事新報社に入社。『少年』『少女』の編集者として活動を始めます。しかし、同社が雑誌刊行から撤退したため、わずか1年足らずで退社し、故郷へ帰ります。この頃からペンネーム「巽聖歌」を使用し始めました。

北原白秋との出会いと文学活動の展開

帰郷後、童謡「水口」が北原白秋に絶賛されたことをきっかけに、白秋の門下生となり、『赤い鳥』の常連投稿者となります。1928年には白秋の勧めで再度上京し、与田準一らと「赤い鳥童謡会」を結成します。翌年には、白秋の弟が設立した出版社に入社し、童謡・童話雑誌『乳樹』（後に『チチノキ』に改題）を創刊。この雑誌を通じて、新美南吉と知り合い、彼の才能を世に送り出すことに尽力しました。

結婚と短歌への傾倒

1932年、洋画家の野村千春と結婚。同年には、新美南吉と同居生活を送ります。1935年、雑誌『チチノキ』が経済的な理由で終刊。その後、白秋が主催する短歌雑誌『多磨』の同人となり、短歌の創作にも本格的に取り組み始めます。

代表作「たきび」の誕生

1941年、ラジオ番組の依頼により、童謡「たきび」を作詞。この作品は、彼の代表作となり、広く親しまれることとなりました。また、同年には第2回児童文化賞を受賞しました。

新美南吉との友情と死別

新美南吉の童話集の出版を世話するなど、南吉を支援し続けましたが、1943年、南吉は病死。巽聖歌は、南吉の遺作の出版を託され、その死を悼みました。

戦後と晩年

戦後は、岩手県での疎開生活を経て、1948年に再び上京。東京都日野市に居を定め、晩年まで同地で暮らしました。1960年には『新美南吉童話全集』を刊行し、産経児童出版文化賞を受賞。1973年、心不全のため68歳で亡くなりました。

死後

死後、故郷の紫波町で名誉町民となり、その功績が讃えられました。また、日野市では、彼の代表作「たきび」が駅の発車メロディーに採用されるなど、今もなおその作品が愛されています。

主な作品

童謡：「たきび」「水口」「海は呼んでいる」「おそらはあおく」など多数
校歌：世田谷区立用賀小学校、日野市立第四小学校、仙台市立上杉山中学校など多数

巽聖歌の文学的意義

巽聖歌は、『赤い鳥』出身の童謡詩人、そして『多磨』出身の歌人として、童謡・少年詩・近代短歌の歴史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、日本の自然や子供たちの心情を繊細に描き出し、多くの人々に愛されています。また、新美南吉を見出した功績も、児童文学界において高く評価されています。

関連人物

北原白秋
新美南吉
与田準一
安倍季雄
宮柊二
玉城徹


巽聖歌は、日本の児童文学、童謡、短歌の世界において、その名を深く刻む人物です。彼の作品は、今もなお多くの人々の心に響き続けています。

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