市ヶ谷南海記念診療所

市ヶ谷南海記念診療所

市ヶ谷南海記念診療所は、日本のプロレス界において特異な存在感を放つ会場の一つです。東京都新宿区市ヶ谷に位置し、その最も大きな特徴として「世界で一番小さいプロレス会場」というキーワードが挙げられます。通常のプロレス会場とは一線を画す、リングロープが存在せず壁に囲まれた密閉された空間での試合は、選手と観客との間に独特の距離感と一体感を生み出します。現在の主な使用団体はプロレスリング我闘雲舞であり、同団体のホーム会場として知られています。

会場の歴史と変遷

この会場の歴史は、2006年12月31日に女子プロレス団体アイスリボンが「市ヶ谷アイスボックス」という名称で開設したことに遡ります。市ヶ谷にある建物の1階に設けられたこのスペースは、当時のアイスリボンの主要な試合会場として機能しました。開設のこけら落とし興行は「ジュニアオールスターのオマケ」と銘打たれ、新たなプロレスの歴史がここから刻まれ始めました。アイスリボンの他にも、ユニオンプロレスなどが「市ヶ谷ユニオンボックス」として使用することもあり、団体のカラーに合わせた様々な興行が展開されました。

独自の試合空間と共用体制

市ヶ谷アイスボックス最大の特徴は、一般的なプロレス会場にあるリングロープが存在しない点です。代わりに空間を囲む壁が試合エリアの境界となり、この壁面を積極的に利用した数々のオリジナル技が生み出されました。アイスリボン所属だった藤本つかさ選手の代名詞ともいえる「ビーナスシュート」（壁を使った三角飛び式延髄斬り）や、聖菜選手のスイングDDTなどがその代表例です。壁があることで、通常のプロレスでは見られない予測不能な動きや攻防が展開され、独自のスタイルを確立しました。また、開設当初は総合格闘技チーム「東京闇愚羅」との共用スペースとして運営されており、プロレス興行がない日には同チームの練習場としても活用されていました。

アイスリボンからの使用終了

アイスリボンは2009年1月に事業部の事務所を別の場所に移転したのに伴い、市ヶ谷アイスボックスでの使用を終了することを決定しました。2009年1月14日に開催された興行「アイスリボン37」が、アイスリボンにとってこの会場での最後の大会となりました。

一時的な空白期から使用再開へ

アイスリボンが撤退した後も、会場自体は東京闇愚羅の練習場として存続していましたが、プロレスの試合会場として使われる機会は激減しました。この時期は、ごく稀にイベントで使用される程度で、かつての賑わいは失われていました。

しかし、2012年に入ると再びプロレス興行が開催されるようになります。同年3月24日にはマーブル☆プロジェクトが、そして5月6日にはアイスリボンが約3年ぶりにこの会場で大会を行いました。これは、再びこの独特な空間がプロレスの舞台として注目され始めた兆しでした。

我闘雲舞体制の確立

そして、この会場の歴史における大きな転換期となったのが、プロレスリング我闘雲舞による使用開始です。2012年6月18日、さくらえみ選手がタイで旗揚げしたプロレスリング我闘雲舞がこの会場でイベントを開催したことを契機に、会場名は「市ヶ谷南海記念診療所」と改称され、我闘雲舞によって継続的に使用されるようになります。

我闘雲舞は、この狭く壁に囲まれた空間を積極的に活用し、選手と観客が一体となるスタイルを確立しました。2013年1月からは、我闘雲舞が興行を行う際に「市ヶ谷チョコレート広場」という愛称も使用するようになり、ファンに広く親しまれています。我闘雲舞以外にも、ガンバレ☆プロレス、ドラゴンソルジャーLAW選手が主宰する「（め）組」、シアタープロレス花鳥風月といった様々な団体がこの会場で独自の興行を開催し、その利用価値を示しました。2016年には、開設当初からスペースを共用していた東京闇愚羅が撤退し、市ヶ谷南海記念診療所はプロレスリング我闘雲舞が単独で運営する体制となりました。

現在の姿

現在、市ヶ谷南海記念診療所（市ヶ谷チョコレート広場）はプロレスリング我闘雲舞の主要なホーム会場として、活発に利用されています。リングロープがない壁に囲まれた独自の空間は、選手たちの創造性を刺激し、通常の会場では見られないような自由で密度の濃い試合を生み出しています。観客席との距離が極めて近いため、選手たちの息遣いや衝撃、感情の起伏を間近で感じることができ、観戦体験は非常にパーソナルで没入感の高いものとなります。この「世界で一番小さいプロレス会場」は、その唯一無二の環境を通じて、今も日本のプロレスシーンに独自の光を放ちを放ち放ち続けています。

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