市丸

市丸の生涯と業績

市丸（いちまる）は、1906年7月16日に長野県松本市で生まれ、本名は後藤まつゑである。彼女は昭和期の芸者歌手として圧倒的な人気を誇り、特に端唄や小唄で知られ、芸名「江戸小歌市丸」としても活動した。市丸は江戸小歌中村派の17世家元でもあり、その地位を確立していた。

早年期と上京

15歳で芸者見習いを始めた市丸は、松本の浅間温泉で蝶々という名前で活動していたが、長唄の未熟さに屈辱を感じ、19歳で上京することを決意した。1926年、浅草の一松家で市丸としてお披露目され、清元・長唄・小唄の名取となるまで努力を重ねた。彼女は浅草四人組の一員として名を馳せ、その類まれなる美貌と歌唱力によって瞬く間に人気芸者となった。

レコードデビューとヒット曲の数々

1931年、市丸はビクターレコードから『花嫁東京』で正式に歌手デビューを果たす。同年にはすでに知られていた『ちゃっきり節』を録音し、全国的な大ヒットを記録。これを皮切りに、彼女の音楽キャリアは順調に進展する。特に映画『旅は青空』の主題歌『青空恋し』も大ヒットし、市丸の名前は広く知られるようになる。

芸界での競争と成功

市丸は音楽界での競争が激しくなる中、特に小唄勝太郎とは人気を二分し、「市勝時代」と呼ばれることもあった。二人はライバル意識を持ちながらも、互いに切磋琢磨の関係を築いており、成功を収める中でお互いを刺激し合った。市丸は多くのヒット曲を持ち、またトーキー映画にも多数出演した。

戦時中には、彼女の楽曲は兵士の心情を表現するものが多くなり、慰問の活動にも従事した。そんな時期でもプロとしての名声を維持し、さらなる新作を発表していった。

戦後と華々しい活躍

1945年の終戦後も、市丸は活動を再開し、『黒髪ロマンス』などの新曲で再び人気を博し、アメリカ文化の影響を受けて新たな音楽スタイルにも挑戦した。特に『三味線ブギウギ』は大ヒットし、当時のトレンドを反映した作品となった。

彼女はテレビやラジオに出演し、蕎麦の主題歌や伝統音楽の現代的アレンジを提供するなど、多彩な活動を続けた。1950年代には、様々なジャンルの音楽に挑戦し、「市丸の流行歌」として多くの楽曲を発表した。

教え子への影響と晩年

市丸は後進の歌手たちに多大な影響を与え、自らも指導を行っていた。彼女は文化庁芸術祭賞や紫綬褒章を受章するなど、その功績が認められた。彼女のキャリアは長年にわたり続き、1975年にはNHK放送文化賞を受賞し、業界における貢献を称賛された。

1996年、卒寿を迎えた市丸は、弟子である中村市之輔の家元襲名を祝い、最後の出演を果たした。その後、体調を崩し、1997年に呼吸不全で息を引き取った。彼女の葬儀は多くのファンに見守られ、感動的な別れが演じられた。

市丸の歌手生活は66年に及び、1700曲以上の楽曲を吹き込んだ。その功績は日本の音楽に大きな影響を与え、今なお多くの人々に敬愛され続けている。

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