市川團蔵 (7代目)

七代目市川團蔵：幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎役者

七代目市川團蔵（1836年-1911年）は、幕末から明治時代にかけて活躍した歌舞伎役者です。屋号は三河屋、定紋は縦長三升、替紋は結び柏、俳名は三猿・市紅、雅号は市紅庵と、多彩な顔を持っていました。

江戸で料理人の家に生まれた團蔵は、幼少期に二代目市川九蔵の養子となり、市川銀蔵と名乗って役者としての道を歩み始めます。その後、二代目市川茂々太郎、二代目市川白蔵と襲名を重ね、安政元年には三代目市川九蔵を襲名。名優として知られた四代目市川小團次に師事し、その芸は後世に大きな影響を与えました。

明治時代に入ると、九代目市川團十郎や五代目尾上菊五郎と並ぶ実力を持つ一方で、彼らとの確執もありました。團十郎からは名跡を剥奪されかけるなど、不遇な時期も経験します。しかし、興行師田村成義の尽力により團十郎と和解し、明治30年、明治座『弓張月源家鏑矢』で七代目市川團蔵を襲名。ついにその真価が認められ、團十郎、菊五郎と並ぶ名優として高い評価を得るようになりました。

その後も各地を転々としたのち、團十郎と菊五郎の死後、歌舞伎座からの招聘を受けて東京に戻り、活躍しました。『伽羅先代萩』の仁木弾正役は特に名演として称賛され、彼の代表作の一つとなりました。

團蔵の芸の特徴は、しわがれ声と鋭い目つきです。得意とした役柄は多岐に渡り、『東山桜荘子』の宗吾・光然、『時今也桔梗旗揚』の武智光秀、『仮名手本忠臣蔵』の師直・勘平、『東海道四谷怪談』の直助権兵衛、『菅原伝授手習鑑』「寺子屋」の松王丸、『楼門五三桐』の石川五右衛門など、幅広い役柄をこなしました。

個性的な芸風と、時に周囲との摩擦を生む娟介な性格は、彼を独特の存在にしました。しかし、その芸への情熱は並々ならぬものであり、敵対していた團十郎もその点を高く評価していたと言われています。團十郎との和解を記念して上演された『伽羅先代萩』では、團蔵の仁木弾正に対し、團十郎は「今度のは全く仁木の客で厶ります。私も久し振りに本当の仁木を見ました」と絶賛しています。

『義経千本桜』の知盛役では、血走った目を表現するために目を悪くする危険を顧みず紅をつけ続けました。『先代萩』の仁木弾正役では、通常は五代目松本幸四郎への敬意から眉尻にホクロをつけるものを、「幸四郎を見せるのではなく、仁木を見せるのだ」として決してつけませんでした。その仁木弾正が花道からせり上がるときには、額に紅を一滴たらし、反身になって登場する演出は、彼の独特の表現力と凄みを際立たせていました。

明治を代表する劇評家である三木竹二は、團蔵の演技について、「頬骨張りし面いかにも一癖あるべく見え、口を結びて折々じろりじろりと上眼に見廻す眼中物凄く、(中略）ねちりねちりと咳枯聲にて言伏する呼吸、また一種の妙味あり」と評しています。

七代目市川團蔵は「團蔵型」と呼ばれる独自の芸風を確立し、多くの観客から支持を受けました。新聞の訃報記事には「劇界稀に見る娟介の優、技藝以外、何ものにも屈する所」がないと記され、その芸に対する高い評価がうかがえます。彼の墓所は東京都台東区谷中の天王寺墓地にあります。

七代目市川團蔵の実子である八代目市川團蔵は、『七世市川團蔵』（求龍堂、1943）を著し、父である七代目團蔵の芸を詳細に分析しています。

もう一度検索