田村成義

田村成義は、嘉永4年（1851年）に江戸で生まれ、幼名を鋳之助といいました。医師の息子として生まれましたが、幼くして両親を亡くし、牢屋敷同心の田村金太郎の養子となり、金一郎と改名しました。その後、維新を経て裁判所勤務などを経て、代言人（現在の弁護士）の道へ進みます。

代言人として活動する傍ら、歌舞伎界との関わりを深め、新富座の経営者である守田勘弥の法律顧問となったことがきっかけで、歌舞伎の世界に足を踏み入れます。五代目尾上菊五郎とも親交を深め、彼の千歳座移籍に際しては経営にも関与しました。その後、歌舞伎座の創立にも尽力し、経営の中核を担うようになります。

田村は、歌舞伎座の経営において、福地桜痴や千葉勝五郎らと共に、株式会社化を推進しました。創立メンバーとして奔走し、取締役や幹事を務めましたが、経営方針の違いから一時的に歌舞伎座を離れることになります。しかし、団十郎や菊五郎の死後、再び経営に携わるようになり、松竹に経営権が移るまでの約10年間、実質的な経営の中心人物として活躍しました。

明治41年（1908年）には市村座の経営権を取得し、歌舞伎座を松竹に譲った後は、市村座の経営に専念しました。市村座では、六代目尾上菊五郎や初代中村吉右衛門といった若手役者を積極的に起用し、彼らをスターに育て上げ、「菊吉時代」と呼ばれる人気時代を築き上げました。歌舞伎座や帝国劇場と競い合いながら、独自の路線を確立し、歌舞伎界に大きな影響を与えました。

田村は、その剛腕ぶりから「田村将軍」と呼ばれ、歌舞伎界の発展に貢献しました。また、小唄を愛し、自らも小唄田村流の創始者である田村てると親交がありました。大正9年（1920年）、腎臓炎のため亡くなりましたが、彼の死後、市村座は息子の田村寿二郎が引き継ぎました。しかし、有力役者の脱退などにより、次第に衰退していきました。田村成義は、弁護士から歌舞伎界の経営者へと転身し、その卓越した手腕で歌舞伎界を大きく動かした人物として、後世に名を残しています。

著作活動も行っており、『演藝逸史無線電話』や『藝界通信無線電話』といった著作を通じて、当時の歌舞伎界の様子を伝えています。また、『続々歌舞伎年代記 乾』では、幕末から明治36年までの歌舞伎の歴史を詳細に記述しました。この著作は、歌舞伎の研究において貴重な資料となっています。

田村の家族としては、実父に眼科医の福井寿仙、養父に田村金太郎がいます。妻の田村てる、長男の田村義太郎、次男の田村寿二郎がおり、養女として田村クラがいます。また、妹の夫である足立繁美は市村座の帳元を務め、その子である田村道美は映画俳優として活躍しました。これらの家族や親族もまた、田村の人生と深く関わっていました。

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