市川宏伸

市川 宏伸

市川 宏伸（いちかわ ひろのぶ）氏は、1945年に生まれた日本の著名な精神科医であり、ノンフィクション作家としても活動しています。医師、薬剤師、高校教員の免許を併せ持つという異色の経歴を持ち、特に児童青年精神医学や発達障害の分野において、長年にわたり日本の医療、福祉、教育現場に多大な貢献をしてきました。

経歴と専門性

市川氏は、まず1968年に東京大学薬学部を卒業し、1970年には同大学大学院薬学系研究科修士課程を修了しています。薬学の専門知識を修得した後、医学の道に進むことを決意し、1979年に北海道大学医学部を卒業しました。その後、東京医科歯科大学にて医学博士号を取得（1989年）し、精神医学、とりわけ子どもの心の健康と発達に関する専門性を深めていきました。

公的な機関でのキャリアも長く、1990年には東京都東村山福祉園医務科長に就任。2003年には東京都立梅ヶ丘病院（児童精神科専門病院として知られる）の院長を務め、そのリーダーシップを発揮しました。さらに、2010年からは東京都立小児総合医療センター顧問として、高度な専門医療の発展に携わりました。

現在の主な活動と貢献

現在、市川氏は発達障害分野における日本の第一人者として、極めて多岐にわたる重要な役職を務めています。国立発達障害情報・支援センター顧問や埼玉県立発達障害総合支援センター所長として、国の施策や地域支援の推進に深く関与しています。また、自閉症児者を家族に持つ医師・歯科医師の会会長や世界自閉症啓発デー日本実行委員会会長として、当事者家族への支援や社会啓発活動にも精力的に取り組んでいます。

学会活動においても中心的な役割を担っており、日本自閉症協会会長、（NPO）日本自閉症スペクトラム学会会長を務めるほか、東京児童青年臨床精神医学会世話人、東京小児メンタルヘルス学会代表世話人、日本学校メンタルヘルス学会理事、日本児童青年精神医学会監事、日本児童青年精神科薬物治療学会世話人など、児童青年精神医学および関連分野の多くの主要な学会・団体の要職を兼任しています。さらに、日本司法精神医学会評議員、日本精神衛生会理事、日本精神科診断学会評議員、日本早期療育学会理事、日本発達障害ネットワーク理事長、（NPO）日本ペアレント・メンター研究会監事、日本臨床外来精神医学会理事、発達障害支援のための評価研究会理事、明治安田生命社会事業団理事など、その活動範囲は精神医療、福祉、教育、司法、研究助成など広範に及んでいます。

主な著作・業績

市川氏は、専門家向けの書籍から一般向けの啓発書まで、多数の著作や監修書を世に送り出しています。特に、子どもの心の健康問題や発達障害に関するものが多く、その知識と経験を分かりやすく伝えています。代表的な著書としては、思春期の心の病気に焦点を当てた『思春期のこころの病気 不登校、いじめ、キレる、ひきこもりなどに、どう対処すればよいか』（2002年）、発達障害の医療に触れた『広汎性発達障害の子どもと医療』（2004年）、子どものサインの見方を示唆する『子どもの表情・しぐさ・行動がちょっと変だな?と思ったとき読む本』（2007年）などがあります。

また、多くの専門家との共編著や監修も手掛けており、『自閉症治療スペクトラム 臨床家のためのガイドライン』（1997年 共編）、『臨床家が知っておきたい「子どもの精神科」』（2002年 共編、2010年 第2版 共編）、一般向けの健康ライブラリーとして『子どもの心の病気がわかる本』（2004年 監修）、『AD/HD(注意欠陥/多動性障害)のすべてがわかる本』（2006年 監修）などがあります。専門性の高い書籍では、『日常診療で出会う発達障害のみかた』（2009年 共編）、『発達障害ケースブック』（2009年 共編）、『図解 よくわかる大人のアスペルガー症候群』（2010年 共著）など、幅広いテーマを扱っています。

海外の重要な専門書の翻訳にも関わっており、『ADHD注意欠陥・多動性障害 親と専門家のためのガイドブック』（2000年 共監訳）や、膨大な情報を網羅した『児童青年精神医学大事典』（2012年 共監訳）など、日本の研究者や臨床家にとって不可欠な文献の紹介に貢献しています。

これらの著作活動に加え、多数の学術論文も発表しており、研究者としての側面も持ち合わせています。教育者、臨床医、研究者、そして啓発者としての多角的な活動を通じて、市川氏は日本の児童青年精神医学および発達障害支援体制の構築と発展において、揺るぎない地位を築いています。

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