市川小團次 (4代目)

四代目市川小団次：幕末の歌舞伎界を彩った名優の生涯

四代目市川小団次（1812年-1866年）は、幕末期に活躍した歌舞伎役者として、その名を歴史に刻みました。伊豆国で生まれた小団次は、幼少期に父を亡くし、母とともに江戸へ移り住みます。その後、芝居の世界に入り、厳しい修業時代を経て頭角を現していきます。

生い立ちと修業時代

小団次は、幼名米蔵として、現在の静岡県河津町で誕生しました。貧しいながらも、芝居への強い情熱を抱き、市川伊達蔵または七代目市川團十郎の門下で修業を始めます。伊勢、松阪、名古屋などを巡業する子供芝居で経験を積み、孤独な中で研鑽を積んでいきました。

米十郎時代と大坂での活躍

市川米十郎を襲名後、金沢や名古屋、そして大坂の中芝居で活躍します。大坂では、先輩俳優とのトラブルで一座を退座する経験もしますが、この挫折をバネに、義太夫狂言の所作を徹底的に学びます。二代目尾上多見蔵ら名優たちに師事し、特に多見蔵からはケレン（派手な演出）を学びました。

『義経千本櫻』での狐忠信役では、三味線の胴から飛び出すという、文字通りの体を張った演技で高い評価を得ます。しかし、その際に負傷するなど、常に危険を伴う舞台人生を送りました。この大坂時代での鍛錬が、後の小団次の芸を支える礎となりました。

小団次襲名と江戸での成功

1844年、大坂で四代目市川小団次を襲名します。その後、江戸に進出し、『けいせい石川染』の奴矢田平役などで人気を博します。五代目市川團蔵からも賞賛されるほどの実力者となり、江戸の歌舞伎界で中心的な存在となっていきました。

小団次は、小柄で容貌も優れているとは言えませんでしたが、天性の運動神経と並外れた努力、そして負けん気によって、数々の当たり役を生み出します。『石川五右衛門』の葛籠抜けや宙乗り、『東山櫻莊子』の佐倉宗吾、『与話情浮名横櫛』の観音久次など、その演技は観客を魅了しました。

八代目市川團十郎の死後は、後進の指導にも力を注ぎます。九代目市川團十郎、五代目尾上菊五郎、七代目市川團蔵ら明治を代表する名優たちが、小団次から多大な影響を受けたと言われています。

河竹黙阿弥との協働と白浪物

1854年、小団次は河竹黙阿弥と出会い、数々の名作を生み出します。『蔦紅葉宇都谷峠』『鼠小紋東君新形』『網模様灯篭菊桐』『小袖曽我薊色縫』『三人吉三廓初買』など、当時の世相を反映した作品の数々は、歌舞伎史上に残る名作となりました。

特に白浪物を多く演じたことから「白浪役者」や「泥棒小団次」と呼ばれましたが、小団次は、単なる悪役ではなく、人間味あふれる盗賊像を演じ切りました。その熱演は、観客を感動の渦に巻き込み、涙を誘うほどでした。

多彩な役柄と卓越した演技力

小団次は、立役、老役、女形、敵役など、あらゆる役柄をこなす卓越した演技力を持っていました。『勧進帳』の富樫、『敵討天下茶屋聚』の弥助・元右衛門、『義経千本櫻』の狐忠信など、様々な役を演じ分け、観客を魅了しました。

さらに、『伊達娘恋緋鹿子』では娘役の八百屋お七を人形振りで演じ、その可憐な姿は、観客に大きな驚きと感動を与えました。舞踊の技量も高く、早替りや宙乗りなどのケレンも得意としていました。

晩年と最期

1866年、小団次は舞台出演中に体調を崩し、自宅で静養していました。しかし、当時の風紀取締りの影響で、人情味あふれる芝居が制限されるという通達を受け、激しい憤慨のあまり憤死したと伝えられています。辞世の句は「ほととぎす 見果てぬ夢を さましけり」でした。

人物像

小団次は、謹厳実直な性格で知られ、質素な生活を送っていました。しかし、癇の強い面も持ち合わせており、その性格が最期を早めたとも考えられています。少年時代からの苦労が、内向的な性格を形成したのかもしれません。

妻のお琴は、男勝りの性格で、小団次の成功を支え、息子たちを立派な役者に育て上げました。小団次は、家庭では舞台のストレスをぶつけることもありましたが、妻のお琴は、巧みにそれを受け止め、家庭を支え続けました。

小団次の出身地である河津町見高神社には、小団次とその子息たちが寄贈した引幕や、小団次直伝の三番叟が残されています。彼の功績は、今もなお、人々の記憶に刻まれています。

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