市川拓司

市川 拓司（いちかわ たくじ）は、1962年10月7日生まれの日本の小説家です。

東京都に生まれた市川氏は、小学校時代を府中市で過ごし、中学進学を機に埼玉県へ移住しました。以後、現在に至るまで同県を生活と創作の拠点としています。埼玉県立与野高等学校を経て、獨協大学経済学部経済学科を卒業。大学卒業後は出版社に入社しましたが、わずか3ヶ月で退職し、バイクでの日本一周旅行に出ました。その後2年間のフリーター期間を経て、少人数の税理士事務所に約14年間勤務しました。

小説執筆は、税理士事務所に勤めていた頃、妻への贈り物として始めたといいます。1997年頃からは、インターネット上で多くの作品を発表するようになりました。当初はミステリー作家としてのデビューを目指しており、サントリーミステリー大賞、鮎川哲也賞、創元推理短編賞といった新人賞にも応募した経験があります。後に、小説を書き始めた動機には、より深い無意識の要因があった可能性にも言及しています。

インターネット上で公開していた作品が編集者の目に留まり、2002年に『Separation』（市川たくじ名義）で商業出版デビューを果たしました。この作品は後に『14ヶ月〜妻が子供に還っていく〜』としてテレビドラマ化、漫画化されています。続く2003年に刊行された『いま、会いにゆきます』は、当時ベストセラーとなっていた別の小説に折り込みチラシとして封入されたことが大きな話題を呼び、これをきっかけに作品自体も大ヒットとなりました。同作の映画化がさらに注目を集めたことで、市川氏は一躍、感涙を誘う恋愛小説の書き手として広く認知されるようになります。

市川氏の作品は、イギリスの作家ジョン・アーヴィングやイアン・マキューアンなどの影響を受けつつ、その根底には常に「愛」というテーマが流れています。しかし同時に、「死」という普遍的な主題も作品の重要な要素として描かれています。ホラーやサスペンスの色彩を帯びることもありますが、特にSFやファンタジーといった非日常的な要素を物語に取り入れることを好む傾向があります。作品の主人公カップルには、市川氏自身の陸上競技経験と、妻の器械体操・エアロビックダンスインストラクターという経歴が反映され、陸上選手と体操選手・インストラクターという組み合わせが登場することがしばしば見られます。

また、市川氏は自らが発達障害（自閉症スペクトラム）であることを公表しており、当事者としての視点からメディアに出演するなど、社会的な活動も行っています。この経験は、2018年にテレビ朝日系でドラマ化された『私小説 -発達障がいのボクが純愛小説家になれた理由-』など、一部の作品にも影響を与えています。

主な著作として、『Separation』や大ヒット作『いま、会いにゆきます』のほか、映画化された『恋愛寫眞　もうひとつの物語』（『ただ、君を愛してる』として）、『そのときは彼によろしく』などがあります。また、『弘海-息子が海に還る朝』、『世界中が雨だったら』、エッセイ集『きみはぼくの』など、幅広い作品を発表しています。共著やアンソロジーへの参加、『ぼくが発達障害だからできたこと』といったエッセイ集も含め、その創作活動は多岐にわたります。

市川拓司氏は、純粋な愛の物語の中にファンタジーやSF要素を巧みに織り交ぜ、読者の心を揺さぶる独自の作風を確立しています。そして、自身の経験をオープンにすることで、作家としてだけでなく、多様な社会における理解促進にも貢献しています。

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