市川正二郎

市川正二郎：俳優から実業家へ、波乱に満ちた生涯

市川正二郎（1913年1月9日生まれ、2003年没）は、日本の俳優、実業家として知られています。本名は牧野正、旧芸名は市川小松、木村正二郎と、複数の名前を使用していました。彼の生涯は、映画史に名を刻む輝かしい俳優としてのキャリアと、意外な転身であるうなぎ屋経営という二つの側面から成り立っています。

俳優としてのキャリア：幾多の変遷

市川正二郎の誕生に関する記録には食い違いが見られます。一説には1913年1月9日、東京府東京市浅草区（現在の東京都台東区浅草）生まれとされていますが、『日本映画俳優名鑑 昭和九年版』には1912年3月1日、長野県松本市生まれ、本名荒木正と記載されています。

6歳の頃、二代目市川松蔦に入門し、「市川小松」として舞台デビューを果たします。東京府立第七中学校（現在の東京都立墨田川高等学校）に進学するも中途退学。その後、1932年、新興キネマ（後の東映京都撮影所）に入社し、「木村正二郎」と改名。長谷川伸原作の『伊太八縞』で映画デビューを果たします。相手役は山路ふみ子でした。翌年には「市川正二郎」に改名し、新興キネマや嵐寛寿郎プロダクションの作品に出演。1934年には日活京都撮影所に移籍します。

日活では主演作も手がけましたが、片岡千恵蔵や阪東妻三郎といった剣戟スターの作品に脇役として出演する機会が増えていきました。サイレント映画全盛期を経て、1935年にはトーキー映画『敵討三都錦絵』に出演し、トーキー俳優としてのキャリアをスタートさせます。1942年、大映京都撮影所に所属した後、退社。第二次世界大戦中は召集や舞台巡業を繰り返します。

俳優引退後：うなぎ屋経営へ

戦後、1947年に俳優を引退。結婚後、書店経営などを経て、1967年には埼玉県熊谷市の老舗「廣川」から暖簾分けし、京都府京都市右京区嵯峨に「うなぎ屋 廣川」を開業しました。その後、同店を息子に譲り、2003年に死去したと伝えられています。享年89歳または90歳でした。2017年現在も「うなぎ屋 廣川」は営業を続けています。

フィルモグラフィー

市川正二郎が出演した作品は多岐に渡り、新興キネマ、日活京都撮影所で数多くの映画に出演しました。初期の作品から日活時代の作品まで、彼の出演作リストは彼の俳優人生の軌跡を示しています。代表的な作品には、『伊太八縞』、『半次月夜の唄』、『雪の肌蜻蛉組』、『槍供養』、『敵討三都錦絵』などがあります。これらの作品の中には、東京国立近代美術館フィルムセンターなどに現存する上映用プリントも残されています。

市川正二郎の生涯：まとめ

市川正二郎の生涯は、俳優として華々しく活躍した時代と、静かに暮らした晩年という、対照的な二つの側面を持っています。数々の映画作品に出演し、観客を魅了した俳優としての輝かしいキャリアと、俳優引退後の異色の転身であるうなぎ屋経営。彼の多様な人生は、現代においても多くの人の興味を惹きつけ続けています。様々な記録や証言を総合的に検討することで、初めて彼の複雑で魅力的な生涯像が見えてくるのです。

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