市川莚十郎

市川莚十郎：歌舞伎から映画へ、時代を彩った名優

市川莚十郎（いちかわ えんじゅうろう）は、明治元年（1869年）に生まれ、昭和18年（1943年）に没した歌舞伎役者、そして映画俳優です。本名を生田宮吉といい、幼名や旧芸名には市川左伊次、市川榮升などがありました。彼は、映画の草創期に主演俳優として活躍した一人であり、特に五代目澤村四郎五郎とのコンビは多くの人々を魅了しました。

生い立ちと歌舞伎役者としてのスタート

莚十郎は、武蔵国（現在の東京都）に生まれました。生年月日については諸説あり、明治元年12月10日（1869年1月22日）とする説と、明治3年12月10日（1871年1月30日）とする説があります。また、父親は浮世絵師の一梅齋芳春であるという記録もあります。8歳で初代市川左團次に弟子入りし、1878年に市川左伊次を名乗り初舞台を踏みました。その後、師匠と共に様々な舞台で大役を務め、その才能を開花させました。1904年には市川榮升と改名し、独立して一座を組織、地方巡業も行いました。

映画界への転身と活躍

その後、莚十郎は映画の世界へと活動の場を移します。1915年に天然色活動写真（天活）に入社し、映画俳優としてのキャリアをスタートさせました。当時、天活では時代劇が人気を博しており、彼は同じく入社した澤村四郎五郎とコンビを組み、多くの作品で活躍しました。しかし、莚十郎は活劇よりも世話物を得意とし、写実的な演技が持ち味であったため、尾上松之助のような子供向けの派手な人気を得ることはありませんでした。それでも、映画『日蓮上人一代記』では、中高年の観客を動員するほどの人気を集めました。1920年には、天活を買収して設立された国際活映に移籍、その後、松竹蒲田撮影所でも多くの作品に出演しました。

その後と最期

1921年、澤村が松竹蒲田に入社したのと入れ違いに、莚十郎は国際活映に復帰しました。1923年公開の『幽魂の焚く炎』が、記録に残る最後の出演作品となりました。以後の消息は不明とされていましたが、実際には歌舞伎の世界に戻っていたようです。1943年3月2日、急性肺炎のため77歳で亡くなりました。告別式は自宅で執り行われました。

市川莚十郎は、歌舞伎と映画という二つの世界で才能を発揮し、多くの人々に感動を与えた名優でした。彼の残した作品は、今もなお人々に愛され続けています。



参考文献

『現代俳優名鑑』（揚幕社、1923年）
『役者の素顔』（玄文社、1919年）
『日本映画俳優全集 男優篇』
『演芸画報』1943年6月号

外部リンク

市川莚十郎 - 日本映画データベース

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