市村羽左衛門 (8代目)

八代目市村羽左衛門（1698年 - 1762年）は、江戸時代中期に活躍した歌舞伎役者であり、市村座の座元としてもその名を知られています。屋号を菊屋、俳名を可江、雅号を橘中庵と称しました。

生涯

芝居茶屋の主人、菊屋善兵衛の三男として江戸に生を受けます。母は五代目市村宇左衛門の姉であり、歌舞伎界との縁が深い家系でした。1703年、わずか5歳で四代目市村竹之丞を襲名し、市村座の座元となります。これは、父が後見人として支えたからこそ実現したものでした。その2年後の1705年には、『万歳田村丸』で天童子を演じ、初舞台を踏みました。この頃から、彼は座元としての顔と役者としての顔を併せ持つようになり、江戸の芝居界で重要な役割を担うようになりました。

1737年には、将軍家の若君である竹千代の名を憚り、「市村宇左衛門」と改名します。さらに、1748年には「羽左衛門」と改め、以後、市村座の座元は代々「羽左衛門」を名乗るようになりました。これは、八代目羽左衛門の功績が、後の市村座に大きな影響を与えたことを示しています。

1761年8月以降は舞台から退き、翌1762年に65歳で生涯を閉じます。墓所は東京都江戸川区の大雲寺にあり、江東区の自性院にも供養塔が建てられています。

芸風と功績

60年という長きにわたり座元を務める傍ら、舞台では若衆、女形、実事、敵役など幅広い役柄を演じました。その演技力は高く評価され、多くの観客を魅了しました。また、子には九代目市村羽左衛門、三代目坂東彦三郎がおり、歌舞伎界に多大な貢献をしました。八代目羽左衛門ゆかりの地として、「曽我御霊社奉寄進石宝殿」があります。これは、春の江戸の芝居で必ず上演された「曽我物」の人物、曽我兄弟を供養するため、八代目が駒込富士神社に寄進したものです。この石宝殿は、八代目羽左衛門の信仰心と、歌舞伎への熱意を示すものとして、今も大切にされています。

八代目市村羽左衛門は、その卓越した才能と情熱で、江戸歌舞伎の発展に大きく貢献しました。座元として劇団を支えながら、役者としても観客を魅了し、その名は後世にまで語り継がれています。

関連事項

市村竹之丞（名跡）
市村羽左衛門（名跡）
坂東彦三郎（名跡）

参考文献

野島寿三郎編　『歌舞伎人名事典』（新訂増補）　日外アソシエーツ、2002年　※123頁

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