市町村歌

市町村歌の概略

市町村歌（しちょうそんか）は、日本の基礎自治体である市町村が制定する公式な歌のことを指します。この歌は、市町村民歌や自治体歌とも呼ばれており、地域の文化や歴史、そして人々の思いを表現する重要な役割を持っています。特に、特別区や政令指定都市では、それぞれの自治体歌を設けている場合があります。

歴史的背景

市町村歌の始まりは、1889年（明治22年）に市制が施行されてから遡ります。最初に作られた市歌とされているのは、1898年（明治31年）に制定された京都市歌です。この歌は作詞が黒川真頼、作曲が上真行によるものであり、現在の京都市歌は1951年（昭和26年）に制定された3代目のものです。その後、1909年（明治42年）には横浜市歌が発表され、これが現存する最古の市歌として知られています。ほとんどの初期の市町村歌は、文語体の五・七・五調で作詞されましたが、昭和初期には多くの大都市が市歌を制定するに至ります。

太平洋戦争が終結するまでに、多くの市町村歌が作られましたが、中にはその内容が軍国主義を想起させるとして、演奏されなくなった例もあります。戦後、特に1960年代から70年代にかけて、多くの市町村が新しい曲調で歌を制定しました。この頃の市町村歌は、明るく親しみやすい口語体で表現されていたのが特徴です。

特に1968年（昭和43年）には「明治百年」を祝うイベントが各地で行われ、これを機に多くの新しい市歌が作られました。また2000年代には、「平成の大合併」という大規模な合併が進行し、地域住民の結束を強めるために新たに市歌を制定する自治体が増えていきました。静岡市の例では、1937年（昭和12年）に制定された旧市歌を廃止して新たな「わたしの街 静岡」を制定しました。

合併に伴う問題

平成の大合併において、自治体の合併が進む中、合併協議会では市町村歌の取り扱いについても取り決められることが一般的です。編入合併方式を採る場合、多くは元々の市歌が継承されますが、合併に伴い市歌が新たに制定されるケースも見られます。例として、浜松市や鳥取市のように合併協議会の決定を受けて新しい市歌を作る場合があります。

また、新設の場合は、新しい市として扱われるため、原則的に旧市歌は失効となります。一部の自治体では、早急に新市歌を策定する例もあり、青森市や松江市がそれにあたります。しかし、市町村歌の制定は優先度が低いため、合併後も旧市の歌の扱いが不明確なまま放置されることもあります。特に経済的な問題や普及を懸念する理由から、新市歌が未制定のままであるケースも少なくありません。

著作権の問題も絡むこのような合併による市町村歌の失効は、作詞・作曲者が著名な場合、特に難しい問題となります。その例として、横浜市の旧市歌が挙げられます。

憲章歌

市町村歌以外に、自治体の憲章に基づいて制定される楽曲も存在します。例えば、京都市には「京都市市民憲章の歌」が、北九州市には「市民憲章のうた」が設けられています。札幌市の「市民の歌」は、市歌として広く知られていますが、実際には外郭団体が制定の主体となっています。

まとめ

市町村歌は地域の文化やコミュニティ意識を強める大切な存在であり、長い歴史の中で市町村のアイデンティティを象徴してきました。自治体の合併や新しい市歌の策定に伴い、今後もその在り方は進化していくことでしょう。

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