市野迷庵

市野迷庵（いちの めいあん）について

市野迷庵は江戸時代後期に活動した儒学者で、1765年に誕生し、1826年に62歳でその生涯を閉じました。本名は光彦で、字は俊卿、後に子邦と改名しました。彼は通称「三右衛門」としても知られ、篔窓や不忍池漁、酔堂といった別号を持つ多彩な人物でした。

家系と学問の歩み

市野迷庵の家族の歴史を辿ると、6代前の祖先である重光が伊勢国の白子から江戸に移り、神田佐久間町で質屋を営み始めました。屋号は「三河屋」と称し、この家業は彼に大きな影響を与えました。迷庵は黒沢雉岡に学びながら、市河寛斎、林述斎、北静盧といった著名な学者たちと交遊を深めました。

晩年に至り、迷庵は朱子学から考証学へと傾くようになりました。この転換は松崎慊堂や狩谷棭斎の影響を受けた結果だと言われています。彼は『正平版論語』などの校勘に関する業績によって特に知られるようになりました。

影響と門人

市野迷庵の影響を受けた門人には渋江抽斎がいます。迷庵の死後、彼の蔵書の多くは抽斎に受け継がれました。これにより彼の学問や思想は後世にも伝わることになりました。文政9年（1826年）に没するまでの間、迷庵は儒学界において重要な役割を果たしました。

逸話と人柄

迷庵の人柄を知るための逸話も多く残っています。例えば、星野恒の『湖亭史話』には、迷庵が林述斎を訪れた際のエピソードがあります。彼は丁稚一人を連れて、唐桟の外套に股引というカジュアルな装いで邸内に入ったところ、仲介役である松崎慊堂から「袴でもはいてくればよろしいものを」という指摘を受けました。すると迷庵は「吾は町人なればこれにて相当なり」と返し、全く気にすることなく振る舞ったそうです。

また別のエピソードでは、迷庵は「林下人」と称されたこともあります。慊堂も同じく「林下人」と呼ばれることがありましたが、迷庵は慊堂に向けて「書生は林下人とはなれない。資産のない者は真の退隠をなしえないからである」と言ったとされています。これらの逸話から、彼の自由な考えや独特の価値観が伺えます。

著作

市野迷庵は多くの著作も残しています。代表的な著作には『詩史顰』や『読書指南』などがあり、これらは彼の学問的見解や経験を反映したものです。迷庵の著作は、今なお多くの研究者や学者にとって参考となる資料として重宝されています。

市野迷庵の生涯や業績は、江戸時代の儒学の発展に寄与した重要なものとして、その後の学問の流れに影響を及ぼしました。彼の考え方や人柄は、現在でも多くの人に尊敬されています。

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