帆立貝形古墳

帆立貝形古墳とは

帆立貝形古墳（ほたてがいけいこふん）は、古墳時代に築造された古墳の一種で、円形の墳丘に小さな方形の突出部がついた、その名の通り帆立貝のような形をしているのが特徴です。帆立貝式古墳とも呼ばれます。この独特な形状は、前方後円墳とは異なる発展を遂げたことを示唆しており、古墳時代の社会構造や祭祀の変化を考える上で重要な手がかりとなります。

概要

帆立貝形古墳は、大きく分けて以下の2つのタイプに分類されます。

1. 円墳に方形の造り出しが付いたもの
2. 前方後円墳の前方部が短小化したもの

ただし、実際にはどちらのタイプに分類されるか判断が難しい場合も少なくありません。

1のタイプには、奈良県の乙女山古墳が代表例として挙げられます。このタイプの古墳は、古墳時代中期初頭に多く見られ、円墳に祭祀を行うための場所として造り出しが付けられたと考えられています。これは、前方後円墳に造り出しが付けられる時期とほぼ一致しています。

一方、2のタイプには、群馬県の赤堀茶臼山古墳が挙げられます。このタイプは、前方後円墳の前方部が短くなったものと考えられ、前方後円墳とは異なる独自の発展を遂げたものと考えられます。

規模と形式

帆立貝形古墳の最大の特徴は、前方部の形状と規模が前方後円墳と比較して小さいことです。墳丘の規模は、どの古墳もほぼ同じ大きさであることも特徴です。例えば、概要で1の例として挙げた乙女山古墳は墳丘長136メートルですが、前方後円墳には規模に大きな差があることから、帆立貝形古墳は前方後円墳とは異なる性格を持つ古墳と見なされています。

このことから、帆立貝形古墳は、前方後円墳を築造することが許されなかった勢力が、独自の形式で築造した古墳であるという見方もあります。これは、大和政権による造墓規制を示唆している可能性もあります。

古墳出現期から前期にかけての円墳や方墳に、小さな方形の突出部を持つ例（纒向型前方後円墳）がありますが、これらは古墳の形式化以前のものとして、帆立貝形古墳とは区別されます。

各地の帆立貝形古墳

帆立貝形古墳は、日本各地に分布しており、地域によって様々な特徴が見られます。

関東地方

塚廻り古墳群（群馬県太田市）：4基の帆立貝形古墳が存在し、多数の形象埴輪が出土しています。
赤堀茶臼山古墳（群馬県伊勢崎市）：椅子や建物など、多種多様な埴輪が出土し、埋葬施設からは多くの副葬品が見つかっています。
女体山古墳（群馬県太田市）：全長106メートルと東日本最大級の帆立貝形古墳で、太田天神山古墳と同時期に計画されたと考えられています。
若宮八幡北古墳（群馬県高崎市）：群馬県内唯一の複突出墳です。
上芝古墳（群馬県高崎市）：多数の形象埴輪が出土しています。
雷電山古墳（埼玉県東松山市）：埼玉県最古の埴輪が確認された古墳です。
野毛大塚古墳（東京都世田谷区）：直径66メートル、高さ9メートルと、帆立貝形古墳としては東日本有数の規模を誇ります。多くの副葬品が出土しています。
狛江亀塚古墳（東京都狛江市）：5世紀に築造され、先開きの扇形をした造り出しを持つのが特徴です。

東海・中部地方

王子塚古墳（長野県上田市）：5世紀半ばから6世紀前半にかけて築造されたと考えられています。
野7号墳（岐阜県揖斐郡大野町）：南屋敷西古墳の陪塚です。
宝塚2号墳（三重県松阪市）：墳丘長90メートルの古墳時代中期の古墳です。
王塚古墳（山梨県中央市）：5世紀後半に築造され、竪穴式合掌形石室から武具や埴輪が出土しています。
勝手塚古墳（名古屋市守山区）：墳丘の形状から、2段築成であったと推定されています。
鳥栖八剱社古墳（名古屋市南区）：自然の丘陵を利用して築造された後期古墳です。

北陸地方

免鳥長山古墳（福井県福井市）：免鳥古墳群の一つで、国の史跡に指定されています。

近畿地方

大塚山古墳（滋賀県野州市）：大岩山古墳群の一つで、国の史跡に指定されています。
丸山古墳（滋賀県野州市）：大岩山古墳群の一つで、国の史跡に指定されています。
久津川丸塚古墳（京都府城陽市）：久津川古墳群の一つで、国の史跡に指定されています。
乙女山古墳（奈良県河合町）：馬見古墳群の一つで、国の史跡に指定されています。
前塚古墳（大阪府高槻市）：古墳時代中期に築造された古墳です。
ホケノ山[[古墳]]（奈良県桜井市）：纒向古墳群の一つで、国の史跡に指定されています。
東田大塚古墳（奈良県桜井市）：纒向古墳群の一つで、国の史跡に指定されています。
茅原大墓古墳（奈良県桜井市）：古墳時代前期から中期にかけて築造された古墳で、国の史跡に指定されています。
丸山古墳（奈良県河合町）：大塚山古墳群に属し、国の史跡に指定されています。
鳥居前古墳（京都府大山崎町）：4世紀末から5世紀初頭に築造された古墳です。
行燈山古墳（奈良県天理市）：現在、崇神天皇陵に治定されている古墳で、大規模な墳丘を持ちます。

中国地方

森山古墳（岡山県赤磐市）：5世紀後半に築造された周濠を持つ古墳です。
千足古墳（岡山市北区）：造山古墳の陪塚で、初期の横穴式石室を持っています。
糸井大塚古墳（広島県三次市）：糸井塚古墳群の第一号古墳です。
三玉大塚古墳（広島県三次市）：竪穴式石室を持つ古墳です。

四国地方

青塚古墳（香川県観音寺市）：5世紀中葉に築造された竪穴式石室を持つ古墳です。
御厨天神社古墳（香川県高松市）：帆立貝形であることが確認された古墳です。

九州地方

男狭穂塚古墳（宮崎県西都市）：西都原古墳群にある大規模な古墳です。
御塚古墳（福岡県久留米市）：3重の周濠を持つ古墳です。
* 舞松原古墳（福岡市東区）：4世紀後半に築造されたと考えられています。

まとめ

帆立貝形古墳は、前方後円墳とは異なる独自の発展を遂げた古墳であり、その形状や規模、分布から、古墳時代の社会構造や勢力関係を読み解く上で重要な存在です。今後も新たな発見や研究によって、帆立貝形古墳の謎が解き明かされることが期待されます。

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