帝国文化院

帝国文化院（ていこくぶんかいん）

帝国文化院（ドイツ語: Reichskulturkammer）は、1933年から1945年までのナチス・ドイツ政権下において、国内の文化、芸術、そして報道分野を国家が管理・統制するために設立された重要な機関です。その目的は、政権のイデオロギーに沿った文化のみを奨励し、それ以外の、特に現代的あるいは批判的な表現を排除することにありました。

設立と根拠

帝国文化院は、1933年9月22日に制定された「帝国文化院法（Reichskulturkammergesetz）」に基づき設立が決定されました。国家のプロパガンダを担当する国民啓蒙・宣伝省の傘下機関として位置づけられ、その総裁には、同省の大臣であったヨーゼフ・ゲッベルスが就任しました。設立後、同年11月22日に公布された文化院施行令により、その具体的な権限と活動範囲が定められました。この法令によって、文化院は「芸術作品の制作、複製、上演、改変、普及、保存、販売、仲介」といった一連の文化活動に関わるあらゆる「文化的職業身分」に対して、包括的な監督権を持つことになりました。これは、作家、音楽家、俳優、画家、ジャーナリストなど、文化分野に携わる全ての人々が、この機関に登録・管理されることを意味しました。

統制思想と目的

帝国文化院の設立は、芸術活動そのものよりも政治の優位性を明確にする意図がありました。文化院が管轄する文化財は、「公衆に伝達される」ことを前提としており、これは芸術家の内的な表現を重視する前衛芸術の考え方とは根本的に対立するものでした。ゲッベルス自身も、「新しい国家においては、芸術創造の自由は保障されるが、この自由は我々ドイツ民族の要求や責任によって厳しく制限される。そしてその境界線は、芸術そのものではなく、政治によって引かれる」と述べており、文化院が国家の政治的目的達成のための道具であることを示唆しています。つまり、政権が求める「ドイツ的」かつ「健全」と見なされる文化のみが奨励され、それ以外の表現は「退廃芸術」などと見なされ、弾圧の対象となりました。

組織構造

帝国文化院の組織は、文化・芸術・報道の各分野を専門的に管轄するために、七つの下部組織（院）から構成されていました。また、ヴァイマル共和政時代に存在した各分野の職能団体を傘下に組み入れ、これらの団体を通じて個々の文化活動家の登録や資格審査を行わせました。これにより、文化院は業界内部からの統制を効果的に行うことができました。主要な下部組織には以下のものがあります。

帝国著述院 (Reichsschrifttumskammer)：文筆活動、出版物の管理・統制を担当。総裁はハンス・フリードリヒ・ブルンク、後にハンス・ヨースト。
帝国映画院 (Reichsfilmkammer)：映画産業全般の監督・統制を担当。総裁はフリッツ・ショイアーマン、オスワルト・レーニヒ、後にカール・フレーリッヒ。
帝国音楽院 (Reichsmusikkammer)：音楽活動、作曲、演奏、音楽教育などの統制を担当。総裁はリヒャルト・シュトラウス、後にペーター・ラーベ。
帝国演劇院 (Reichstheaterkammer)：演劇活動、劇場運営の管理・統制を担当。総裁はオットー・ラウビンガー、ライナー・シュレッサー、ルートヴィヒ・ケルナー、後にパウル・ハルトマン。
帝国新聞院 (Reichspressekammer)：新聞、雑誌などの報道機関とジャーナリストの統制を担当。総裁はマックス・アマン。
帝国ラジオ院 (Reichsrundfunkkammer)：ラジオ放送の管理・統制を担当。総裁はホルスト・ドレスラー＝アンドレス。1939年に国家放送協会に吸収され消滅。
* 帝国造形芸術院 (Reichskammer der bildenden Künste)：絵画、彫刻、建築などの造形芸術分野の統制を担当。総裁はオイゲン・ヘーニヒ、アドルフ・ツィーグラー、後にヴィルヘルム・クライス。

これらの専門院は、それぞれの分野における活動家の登録・非登録（排除）、作品の審査、表現内容の検閲などを通じて、ナチス体制下の文化・芸術・報道を画一化し、政権の意図に沿ったものへと作り変える役割を担いました。帝国文化院の存在は、ナチス・ドイツにおける全体主義的な文化統制の象徴と言えます。

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