国民啓蒙・宣伝省

ナチス・ドイツの国民啓蒙・宣伝省：情報統制とプロパガンダの機関

1933年、ナチス政権下で設立された国民啓蒙・宣伝省（通称：宣伝省）は、ヨーゼフ・ゲッベルス大臣のもと、国家による情報操作と国民の思想統制を担う強力な機関でした。ベルリンの騎士団宮殿に設置された同省は、当初は小規模な組織でしたが、ナチスの権力強化とともに急速に拡大し、文化、経済、社会のあらゆる面でプロパガンダを展開しました。

組織と権限

宣伝省は、複数の部門から構成されていました。国内外の報道、映画、ラジオ、出版、演劇、音楽、美術など、国民生活に密着したあらゆる分野を掌握し、情報発信と検閲を徹底的に行っていました。ゲッベルスの直下に3人の次官が置かれ、それぞれが複数の部門を統括。予算は発足時の1400万ライヒスマルクから、1944年には1億8700万ライヒスマルクにまで増加しました。

省内には、国内外の報道機関への指示や検閲を行う部署、映画製作や検閲を担う部署、ラジオ放送の統制を行う部署などが存在しました。特に映画部門はゲッベルスが強い関心を持ち、しばしば作品の方向性を指示していました。また、帝国文化院など傘下の機関を通じて文化・芸術活動も厳格に管理し、「退廃芸術」とみなされた作品は徹底的に排除されました。

プロパガンダ活動

宣伝省は、国民にナチズムのイデオロギーを浸透させるための多様なプロパガンダ手法を用いました。

新聞・雑誌: 国家報道評議会を通じて、新聞や雑誌への厳しい検閲と指示が行われました。
映画: 1934年の検閲法改正により、映画の内容は「道徳性」と「芸術性」の観点から厳しく審査されました。1938年には、映画上映前にニュース映画を流すことが義務づけられ、国民への情報操作は徹底されました。1940年には、複数のニュース映画が『ドイツ週間ニュース』に統合されました。
ラジオ: 1933年にはドイツ帝国放送協会が国有化され、宣伝省の管理下に置かれました。ラジオ放送は、ナチス政権の政策宣伝や国民感情の高揚に積極的に利用されました。

他の省庁との権力闘争

宣伝省の権限は非常に広く、他の省庁との間でしばしば権力闘争が発生しました。特に、対外宣伝を担う外務省とは、権限や予算を巡る激しい争いが繰り広げられました。

影響と評価

国民啓蒙・宣伝省は、ナチス政権の強力なプロパガンダ機関として、国民の思想や行動を効果的に統制しました。徹底した情報操作と検閲は、国民の反政府的な動きを抑制し、ナチス政権の安定に大きく貢献しました。しかし、同時に、国民の自由な思考や表現を著しく阻害し、民主主義を破壊する大きな要因となりました。第二次世界大戦後、ニュルンベルク裁判では、宣伝省の幹部らが戦争犯罪人として裁かれました。

関連用語

強制的同一化
ナチスのプロパガンダ
帝国文化院
帝国造形芸術院
退廃芸術
退廃音楽
国民ラジオ
ウーファ (映画会社)
ハンス・フリッチェ
オイゲン・ハダモフスキー
ゲッベルスの演説

宣伝省の活動は、国家による情報統制とプロパガンダの危険性を示す、歴史的な事例として現在も研究されています。その手法や影響は、現代社会においても重要な教訓となっています。

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