帝国造形芸術院

帝国造形芸術院：ナチス・ドイツにおける芸術統制の象徴

帝国造形芸術院（Reichskammer der bildenden Künste）は、ナチス・ドイツ（第三帝国）が1933年に設立した機関です。この組織は、ナチスのイデオロギーに合致する芸術を奨励し、同時に「退廃芸術」とみなされた芸術を弾圧するという、二つの相反する目的を遂行しました。その活動は、ナチスによる文化統制の重要な一部を担っていました。

設立と目的

帝国造形芸術院は、帝国文化院の下部組織として設置されました。その目的は、芸術家の活動を国家の管理下に置き、ナチスのプロパガンダに貢献させることでした。具体的には、以下のような役割を担っていました。

芸術家の活動領域の限定: 会員の活動範囲を定め、国家と国民のための文化創造に貢献させました。
文化的職業の経済的・社会的管理: 芸術家の経済状況を管理し、組織内での活動を調整しました。
ナチスにふさわしい芸術家の育成: ナチスのイデオロギーに合致する作品を制作する芸術家を育成しました。

帝国造形芸術院への入会は、展覧会への出展を希望する芸術家にとって必須条件でした。しかし、入会には「政治的な信頼性」と「アーリア人であること」という厳しい条件が課せられ、多くの芸術家が排除されました。これは、ナチスが芸術を政治的な道具として利用し、思想統制を行うための手段でした。

同時代からの批判

帝国造形芸術院の活動は、同時代の芸術家から多くの批判を受けました。その主な理由は以下の通りです。

素人やディレッタントの受け入れ: 芸術的な能力がない者が会員として受け入れられ、芸術の水準低下を招きました。
芸術家への政治的支援の欠如: 芸術家への十分な経済的支援が行われず、芸術家の生活が不安定でした。
芸術的才能の軽視: 技術的な素養のない者が「芸術家」として扱われ、真の才能が埋もれてしまいました。

これらの批判は、帝国造形芸術院が芸術の質を高めるのではなく、ナチスのプロパガンダを推進するための組織に過ぎないことを示唆しています。芸術の商業化と大衆化を推進したナチスは、このような批判に耳を傾けることはありませんでした。

組織の主要人物

帝国造形芸術院の総裁の一人として、アドルフ・ツィーグラーが挙げられます。彼は、元々凡庸な画家でしたが、ヒトラーに気に入られたことで異例の出世を遂げ、退廃芸術の弾圧に積極的に関与しました。ツィーグラーの存在は、帝国造形芸術院が芸術的な価値ではなく、政治的な都合によって運営されていたことを象徴しています。

結論

帝国造形芸術院は、ナチス・ドイツにおける芸術統制の象徴であり、芸術を政治利用した典型的な例です。この組織の活動は、芸術の自由を奪い、国家のプロパガンダに奉仕する芸術を生み出しました。その歴史は、芸術が政治によっていかに歪められ得るか、そして、芸術家がいかに権力によって翻弄され得るかを物語っています。

参考資料

Kunst im 3. Reich. Dokumente der Unterwerfung, Frankfurter Kunstverein
井上純一「拒否されたアイデンティティ―「ハルプユーデ」としてのアドルノ―」
田野大輔「古典的近代の復権―ナチズムの文化政策について―」

関連事項

ナチス・ドイツ
国民啓蒙・宣伝省
帝国文化院
頽廃芸術
アドルフ・ヒトラー
* アドルフ・ツィーグラー

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