常世

常世（とこよ）と隠世（かくりよ）

常世は、日本の神話や古神道において、時間が永久に流れる神聖な世界を示す言葉であり、死後の世界や黄泉の国としても知られています。「常」とは「永遠」を指し、かつては「常夜」とも呼ばれていました。この「常世」という概念は、対義語として位置づけられる「現世（うつしよ）」と密接に関連しています。

常夜とその象徴

常夜という名称には、常に夜が続く世界というイメージが込められており、死者の陰の国であると認識されています。しかし、折口信夫の研究によると、この常世は主に海の向こうに存在する理想郷であるとされ、特定の条件を満たした者（マレビト）が訪れることで、富や知識、命の延長、不老不死といった恵みを享受できる場所として定義されています。

日本神話に見る常世

日本の古典文学や神話の中で、常世は頻繁に登場します。『古事記』や『日本書紀』によれば、大国主神と共に国造を行った少名毘古那神は、その国造りが終了した後、海の彼方にある常世の国へ旅立ったとされます。このように、常世は神々や英雄たちが関わる特別な場所として描かれているのです。

また、『万葉集』では浦島太郎が訪れた竜宮城も常世と称され、そこでの時間の流れは現実世界とは異なるものとして描かれています。さらに、『日本書紀』では天照大神が倭姫命に神託した際、伊勢のことを常世の浪重浪に帰する国として言及しています。

古神道とその信仰

古神道において、常世は特別な意味を持つ場所と見なされています。神籬（ひもろぎ）や磐座（いわくら）と呼ばれる巨石や神木、そして鎮守の森は、神々が住まう場所とされるだけでなく、現世と神域との境界を示すものとして重要視されています。日本の特定の場所、例えば沖ノ島などは、神域として禁足地とされ、一般の人々が立ち入ることができない場所とされています。

結界と端境

鎮守の森や神社周辺には、常世との境界を形成するために作られた石造の道祖神や祠が存在します。このような場所は、道を通る人々の安全を祈願する役割も果たしており、また常世との結界の役割を果たしています。さらに、時間の端境である夕刻や深夜は、常世と重なると考えられ、「逢う魔時」や「丑三つ時」と呼ばれ、特に神秘的で恐れられる時間帯として意識されています。

琉球神話との類似

琉球神話においても、常世と似た概念が存在します。ニライカナイという異界の考えは、日本本土の常世と類似しており、文化的な繋がりを示しています。

文学に現れる常世

紫式部が著した『源氏物語』の中にも、常世をテーマにした和歌が存在します。これらの和歌は、常世の特異な存在感や神秘的な要素を表現しているものです。

地名や氏族

常世にちなんだ地名や氏族も日本各地に存在します。福島県のいくつかの町の名前に常世が使われているほか、常世氏という氏族もあり、古代の渡来人に起源を持つとされています。常世岐姫神社は、常世の神々を祀る場所として注目されています。

結論

常世は、日本の神話や信仰に深く根付いた理念であり、神々や死後の世界との繋がりを想起させる重要なコンセプトです。これは、我々が生きる現世とは異なる時間や空間の概念を提供し、古代の人々にとって神秘性を象徴するものでした。

もう一度検索