常山紀談

常山紀談：戦国武将たちの生き様を伝える逸話集

『常山紀談』は、江戸時代中期、備前岡山藩主池田家に仕えた儒学者、湯浅常山によって編纂された逸話集です。戦国時代の武将たちのエピソードを470条以上収録しており、簡潔で読みやすい和文で書かれています。本文25巻、拾遺4巻、そして付録として「雨夜燈」1巻から構成される大部の書物です。

成立と特徴

本書の原形となる草稿は1739年（元文4年）に完成しましたが、師である太宰春台の助言を受け、その後30年以上にわたる徹底的な改稿が続けられました。1770年（明和7年）に完成したとされていますが、湯浅常山自身は1781年（天明元年）に亡くなっており、本書の初刊は死後20年後のことでした。

『常山紀談』の特徴は、その簡潔な記述と、史実の正確性よりも、読み物としての魅力を優先している点にあります。勧善懲悪といった単純な善悪の対立ではなく、様々な逸話を主題ごとにまとめて紹介し、著者の個人的な評論は極力控えています。そのため、複数の出典からの話が混在しており、史実の正確性には必ずしも重きを置いていないと言えるでしょう。

しかし、この点が本書の魅力にもなっています。有名な逸話や痛快なエピソードが数多く収録されており、まるで歴史小説のような面白さがあります。事実を重視しようとした徂徠学派の学風と、大衆的な娯楽性を両立させた独特の作品と言えるでしょう。

影響と評価

『常山紀談』は、明治・大正期の教科書にも採用されるなど、広く読まれ、高い人気を博しました。後世の逸話集にも多大な影響を与え、『名将言行録』といった作品にもその原型を見出すことができます。史書としては必ずしも正確性に欠ける部分もあるものの、教訓集や説話集としても高く評価され、現在でも歴史愛好家や文学愛好家から読み継がれています。

出版と版本

『常山紀談』は、初刊行以降、様々な出版社から多数の版本が刊行されています。以下に、その一部を列挙します。

常山紀談. 巻之11-20 / 湯浅常山(元禎). 宋栄堂, 1877
常山紀談 / 湯浅元禎[他]. 内外兵事新聞局, 1879
常山紀談 / 湯浅常山(元禎). 信濃出版社, 1883
…（以下、多数の版本）…
常山紀談. 上下巻 / 湯浅常山・鈴木棠三校注. 角川文庫, 1965-1966
定本常山紀談. 上下巻 / 湯浅常山・鈴木棠三校注. 新人物往来社, 1979

これらの版本は、時代や出版社によって内容や注釈などが異なる場合があり、現代の読者にとっても様々な読み方ができる魅力を持っています。

まとめ

『常山紀談』は、単なる史実の記録にとどまらず、戦国武将たちの生き様を生き生きと描き出した、優れた逸話集です。簡潔な文体、魅力的なエピソードの数々、そして数多くの版本の存在は、本書が時代を超えて愛され続ける理由と言えるでしょう。歴史好きの方、痛快な物語好きの方、そして日本の古典文学に興味のある方にとって、必読の一冊と言えるでしょう。

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