湯浅常山

湯浅常山：揺るぎない信念と公私分明な生き様

湯浅常山(ゆあさ じょうざん)は、江戸時代中期に岡山[[藩]]に仕えた儒学者にして藩士です。雅号を常山、諱を元禎、字を之祥(士祥)といい、通称は新兵衛でした。戦国武将の言行録『常山紀談』で広く知られています。

400石取りの中級藩士の家に生まれた常山は、幼少期から古学を学び、歴史、漢詩、武芸にも精通しました。24歳で家督を相続すると、翌年には藩命により江戸へ赴き、荻生徂徠の門人である服部南郭に入門。徂徠学派の中心人物である太宰春台や松崎観海、そして同郷の井上蘭台らと交流を深めました。

岡山に戻った常山は、池田氏3代の藩主に仕え、寺社奉行や町奉行などの要職を歴任します。しかしながら、その職務においても、身分を問わず、不正や非効率を厳しく指摘する彼の直言は、藩政批判とみなされることもありました。結果、隠居を命じられ、以後は著述に専念することとなります。

常山の著作には、『常山紀談』の他に、徂徠学派の言行録である『文会雑記』、随筆集『常山楼文集』などがあります。『常山紀談』は、戦国時代の忠臣や勇者の事跡をまとめたもので、そこには「武士は武を尊び、文治を排して武事を廃するな」という力強い主張が込められています。

常山の人物像は、品位と方正さを備え、岡山[[藩]]のために尽くした人格者として伝えられています。しかし同時に、その直言ぶりは周囲から反感を買うこともありました。讒言により官職を追われ、晩年は静かに著述に励んだとされています。

常山は、武芸にも秀でており、高齢になっても毎日欠かさず槍と刀を振るっていたそうです。また、善行や善言に触れると感極まって涙し、それらを生涯忘れることはありませんでした。

公私を厳格に区別する彼の姿勢は、幕府の代官であった野口直方とのエピソードからも見て取れます。野口の転任に伴い、常山は藩命により彼を江戸まで送ることになりましたが、その際、私的な送別は息子に任せ、自身はあくまで公務として任務を全うしたのです。

彼の深い孝行心もまた、広く知られています。父や母の死後、長期間喪に服し、毎朝墓前で慟哭したという逸話は、常山の心の奥底にある深い愛情を物語っています。

井上蘭台との交流を通して、常山の才能を高く評価する声もあった一方、その名声は全国区には届きませんでした。松崎観海や太宰春台も常山の詩文の才能を認めながらも、詩作に固執せず、より大きな舞台で活躍することを勧めたという逸話も残されています。

母親との『枕草子』談義が、常山の文学への道を志すきっかけになったという説もあります。このように、湯浅常山は、公私にわたる揺るぎない信念と行動力、そして深い孝行心を持った稀有な人物でした。彼の生涯は、現代社会においても学ぶべき多くの示唆に富んでいると言えるでしょう。

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