常願寺川扇状地

常願寺川扇状地

富山県富山市と中新川郡立山町に位置する、常願寺川によって形成された広大な扇状地です。同じく富山湾に注ぐ神通川の扇状地と隣接しており、これらを合わせて複合扇状地を形成していますが、常願寺川扇状地は神通川扇状地よりも規模が大きく、狭義の富山平野の大部分を占める重要な地形です。この扇状地の形成には、背後の立山カルデラから供給された大量の崩壊土砂が大きく関与しており、他の扇状地に比べて堆積層が厚いという特徴を持ちます。

形成過程と地形的特徴

常願寺川扇状地は、主に立山カルデラで発生した大規模な山体崩壊や土砂流によって流出した物質が、常願寺川によって運搬され、堆積を繰り返すことで形作られました。扇状地の頂点にあたる扇頂は富山市上滝付近、標高約165メートル地点にあり、そこから放射状に広がり、標高約15メートル付近を扇端としています。全体の勾配は1000メートル進むごとに約14メートルの高低差がある比較的急な地形です。

特徴的な点として、常願寺川扇状地には、隣接する黒部川扇状地などと比較して、河川が過去に流れていた痕跡である明確な旧河道がほとんど見られません。これは、常願寺川が極めて大量の土砂を供給し、扇状地全体に均一に厚く堆積させた結果であると考えられています。

自然環境と地形区分

常願寺川扇状地の一部では、その後の地殻変動によって隆起が生じ、現在の扇状地本体から切り離された段丘状の地形、すなわち上段台地と下段台地が形成されています。これらは、扇状地の形成史における異なる段階や地盤の動きを示す重要な地形要素です。

また、扇状地の南縁を流れる熊野川も、常願寺川扇状地の形成に影響を受けています。熊野川は山間部では常願寺川に近い位置を流れますが、扇状地を形成する常願寺川からの厚い土砂の堆積によって、平野部に出るとその流路が南側へ押し出されました。その結果、常願寺川扇状地の南端に沿うように流れを変え、最終的には神通川に合流しています。

主要河川と土地利用

この扇状地内を流れる主要な河川としては、形成主体である常願寺川のほか、前述の熊野川、そして白岩川、いたち川などがあります。これらの河川は、扇状地内の水資源供給に不可欠な役割を果たしています。

常願寺川扇状地は、その広範な範囲が農業に利用されています。特に扇状地の中心部にあたる扇央部分では、家屋が水田の中に点在する「散村（さんそん）」と呼ばれる集落形態が広く見られます。これは、豊富な地下水や湧水を利用するために、農家が各自の耕作地の近くに住居を構えた結果生まれた独特な景観です。扇状地のほぼ全体が水田として利用されており、富山県を代表する穀倉地帯の一つとなっています。

交通網も発達しており、富山地方鉄道の上滝線や立山線が扇状地上を走り、地域住民の移動手段として利用されています。また、都市部へのアクセスが良い一部地域では、近年宅地化が進み、住宅地としての開発も行われています。このように、常願寺川扇状地は、自然が作り出した地形を基盤としつつ、多様な土地利用が進む地域となっています。

常願寺川が運搬した立山からの土砂が、富山平野に豊かな大地を形成し、人々の暮らしと産業を支えているのです。

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