平井丈一朗

平井 丈一朗

平井 丈一朗（ひらい たけいちろう）は、1937年8月28日に東京で生まれた日本の著名なチェロ奏者、そして作曲家です。本名は平井克明。作曲家である平井康三郎を父に持ち、幼い頃から音楽に親しみました。桐朋学園短期大学で学び、音楽家としての礎を築きました。

幼少期の平井丈一朗は、父である平井康三郎からピアノと作曲の手ほどきを受けました。その才能は早くから開花し、小学校時代にはすでにピアノ協奏曲を含む100曲もの作品を書き上げるほどでした。これは、氏の音楽への深い情熱と創造性を示す初期の事例といえるでしょう。1949年からは、子供のための音楽教室にて、日本のチェロ教育の大家である斎藤秀雄のもとでチェロの本格的な学習を開始しました。この師事期間が、後の輝かしいチェロ奏者としてのキャリアの出発点となります。

氏の演奏家としての才能は、早くから国内および国際的なコンクールで認められました。1954年には、日本の音楽界における重要な登竜門である日本音楽コンクールにおいて、チェロ部門での優勝を果たしました。この成功は、日本の音楽界に若きチェロ奏者の存在を強く印象付けました。さらに1957年には、フランスのパリで開催された名誉あるカザルス・チェロ・コンクールにて特別賞を受賞。この受賞は、氏のキャリアにおける決定的な転換点となりました。

カザルス・チェロ・コンクールでの受賞を機に、平井丈一朗は伝説的なチェロ奏者パブロ・カザルスの知遇を得ることとなります。偉大なチェロ奏者グレゴール・ピアティゴルスキーの推薦もあり、平井氏は1961年までの間、カザルスの薫陶を直接受けました。これは、世界の音楽史においても稀有な、巨匠から直接指導を受ける貴重な経験となりました。カザルスは平井氏の才能と可能性を高く評価し、1961年にはニューヨークでの記者会見において、公然と彼を自らの後継者として指名する発言を残しています。「ヨーロッパ中どこへでも彼を連れて歩き、私の全てを教えた。彼こそが私の後継者となるだろう！」という言葉は、カザルスがいかに平井丈一朗という音楽家を深く信頼し、その将来に期待を寄せていたかを物語っています。

1961年に平井氏が日本へ凱旋帰国した際には、師であるカザルスも指揮者として来日するという歴史的な出来事が実現しました。平井氏は、カザルスが指揮するもと、東京と京都において、ドヴォルザークなどの四大協奏曲を、それぞれ東京交響楽団および京都市交響楽団との共演で披露しました。これは、師弟による感動的な共演として、日本の音楽史に刻まれることとなりました。

その後も平井丈一朗氏は国際的な活動を続け、1962年にはチャイコフスキー国際コンクールのチェロ部門において、ソヴィエト作曲家同盟からの特別賞を授与されました。これ以後、氏はソリストとして、世界40カ国以上を巡り、精力的な演奏活動を展開しています。その活動範囲は広範にわたり、国際的な舞台で日本の音楽文化を紹介するとともに、チェロ音楽の普及に貢献しています。

演奏活動に加え、平井氏は社会貢献や特別なテーマを持った演奏会にも積極的に取り組んでいます。1988年の「第1回世界チェロ大会」では、当時のナンシー・レーガン大統領夫人の招待により特別ゲストとして招かれ演奏を行いました。1992年には世界飢餓救済のためのワールド・ハンガー・コンサート開催に貢献。1995年にはポーランドのアウシュビッツにて「平井丈一朗アウシュビッツ・コンサート」を開催し、平和へのメッセージを発信しました。また、2011年には東日本大震災の被災地支援を目的としたチャリティーリサイタルを実施。このリサイタルで披露された新作「祈りのアリア」は、続く2013年に初演された「幻想曲“和”」と共に大きな反響を呼ぶこととなりました。これらの活動は、氏が単なる演奏家にとどまらず、音楽を通じて社会と関わり、発信する音楽家であることを示しています。

近年もその精力的な活動は衰えることなく、2015年には演奏活動60周年、2019年には65周年を記念する演奏会が開催されました。いずれもリサイタルおよび協奏曲の両方のプログラムが組まれ、長年のキャリアで培われた円熟した演奏が高く評価され、好評を博しました。平井丈一朗氏は、カザルスが後継者と認めた技術と精神を受け継ぎ、国際的な舞台での活躍、作曲活動、そして社会貢献活動を通して、日本の音楽界において多大な貢献を続けている音楽家です。

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