平井加尾

平井 加尾（ひらい かお）

平井加尾は、天保9年（1838年）に土佐国土佐郡井口村（現在の高知県高知市）に生まれた、幕末から明治時代にかけての女性です。西山加尾（にしやま かお）の名でも知られます。父は土佐藩士の平井直澄。兄には、後に尊攘運動に関わり、切腹を命じられる平井収二郎がいます。夫は、維新後に衆議院議員や警視総監などを務めた西山志澄（にしやま しすみ）です。

生涯

加尾の人生は、激動の時代と共にありました。安政9年（1859年）、加尾は前土佐藩主・山内容堂の妹である友姫が公家の三条公睦のもとへ嫁ぐにあたり、その御付役として京へ上りました。以来、文久2年（1862年）までの約3年間、三条家に仕え、公家の世界に触れることとなります。

慶応2年（1866年）、加尾は西山志澄を婿として迎え、平井家の家督を継がせました。二人の間には一人の娘が生まれています。その後、明治11年（1878年）には、夫と共に西山姓に戻し、一家は西山を名乗るようになりました。加尾は、娘が成長した後に平井家を再び興させる手筈を整えています。

明治42年（1909年）に、加尾は72年の生涯を終えました。

坂本龍馬との関わり

平井加尾は、幕末の志士・坂本龍馬の初恋の相手であったという説が古くから伝えられています。二人の関係を示す具体的な史料としては、文久元年（1861年）に龍馬が加尾に対し、男性用の身支度品、あるいは脱藩の準備に必要な物品を調達するように指示したとされる書状が現存しています。加尾は龍馬の求めに応じてこれらの品を用意しましたが、龍馬はこの時には脱藩を決行せず、翌文久2年（1862年）3月に、同志の沢村惣之丞と共に土佐を離れることになります。

龍馬が脱藩した後、兄である収二郎からは、龍馬に関する相談に軽々しく乗ってはならないと、加尾は厳しく注意を受けたといいます。文久3年（1863年）6月、兄・平井収二郎は土佐藩内の政変に巻き込まれ、切腹を命じられます。この悲劇に対し、龍馬は同年6月29日付で姉の坂本乙女に宛てた手紙の中で、「平井収二郎のことは誠にむごい仕打ちだ」「その妹である加尾の嘆きは、どれほどのものであるか」と、収二郎の死を悼むと共に、加尾の深い悲しみに思いを寄せています。

加尾自身も、晩年に記したとされる手記『涙痕録（るいこんろく）』の中で、坂本龍馬と再び会う機会が訪れなかったことについて、「女子一生の痛恨である」と心情を吐露しています。この記述からは、加尾にとって龍馬との関係、あるいは再会が叶わなかったという事実が、人生において非常に大きな意味を持っていたことがうかがえます。

このように、平井加尾は単に龍馬の初恋の相手とされるだけでなく、龍馬の脱藩計画に関わった可能性を示唆する書状が残されていること、そして龍馬自身がその身を案じていたことが手紙から読み取れること、さらに自身の著書で龍馬への思いを記していることから、幕末の女性としては比較的詳細な史料が残されており、坂本龍馬研究においても重要な人物の一人とされています。

関連情報

平井加尾は、2010年に放送されたNHK大河ドラマ『龍馬伝』において、俳優の広末涼子によって演じられています。

（参考文献：宮地佐一郎著『龍馬の手紙』講談社学術文庫、2003年など）

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