平安丸

平安丸の概要

「平安丸」は、日本郵船が所有していた貨客船で、「氷川丸」の姉妹船として知られています。大阪鐵工所桜島工場で1929年6月に起工、翌1930年11月に竣工しました。船橋には平安神宮が祀られており、姉妹船である「氷川丸」「日枝丸」とともに、頭文字に「H」を持つ神社名が由来となっています。

1941年8月、日米関係の悪化により、シアトル航路を最後に横浜へ帰港。その後、同年10月に日本海軍に徴用され、特設潜水母艦として改装されました。15センチ砲や高角機銃などの武装が施され、潜水艦への補給任務などに従事しました。

特設潜水母艦としての活動

1941年末に第六艦隊隷下となり、クェゼリン環礁と呉の間で輸送任務に従事。その後、第一潜水戦隊の旗艦となり、トラック泊地を拠点に活動しました。1943年にはアッツ島沖海戦やキスカ島撤退作戦にも参加し、潜水艦支援に従事。また、南東方面への輸送作戦にも投入され、各地への兵員や物資の輸送を行いました。

キスカ島撤退作戦でのエピソード

キスカ島撤退作戦中には、幌筵停泊中に、潜水艦「伊2」の艦長が海に転落するというアクシデントが発生。平安丸は「イカニサレシヤ」と信号を送りましたが、伊2は「溺者救助訓練ヲ実施セリ。作業完了、異状ナシ」と返信したというエピソードが残っています。

沈没

1944年1月、第一潜水戦隊が解隊され、平安丸は第六艦隊の直率となりました。2月15日には、練習巡洋艦「香取」に代わり、第六艦隊の旗艦となりました。しかし、そのわずか2日後、トラック島空襲に遭遇し、アメリカ海軍の艦載機の攻撃を受けました。左舷船尾に直撃弾、至近弾により推進器が破損し、応急修理後も、翌日の空襲で左舷中央部に直撃弾と魚雷を受け、火災が発生。乗員は総員退去し、9時30分に転覆沈没しました。

沈没後、船体は夏島（デュブロン島）の北西、水深36mの地点で右舷を上にして横転した状態で発見され、現在も原型を留めています。船倉には、魚雷や潜望鏡などの貴重な遺物が残されており、ダイビングスポットとしても知られています。

各艦長

原田文一 大佐：1941年10月15日 - 1942年11月10日
関本織之助 大佐：1942年11月10日 - 1943年11月1日
玉城利治 大佐：1943年11月1日 - 1944年3月16日

創作作品への登場

かわぐちかいじ『ジパング』: キスカ島撤退作戦をモチーフにしたストーリーに登場。イージス艦「みらい」の護衛を受けながらキスカ島へ向かいます。
『艦隊これくしょん -艦これ-』: 「改氷川丸級」3番艦として、特設潜水母艦時代の姿を擬人化したキャラクターとして登場。貨客船としての経歴もセリフで語られています。

参考文献

アジア歴史資料センター（公式）（防衛省防衛研究所）
『海軍』編集委員会『海軍第十一巻　小艦艇　特務艦艇　雑役船　特設艦船』1981年
海軍歴史保存会『日本海軍史』第10巻、第一法規出版、1995年。
海人社『世界の艦船』1997年6月号 No.525
海人社『世界の艦船』別冊『日本の客船（1）』
海人社『世界の艦船』1999年8月号 No.556
ノンフィクション作家佐藤和正『艦長たちの太平洋戦争　続篇　17人の艦長が語った勝者の条件』光人社、1984年4月。
船舶技術協会『船の科学』1980年1月号 第33巻第1号
戦没船を記録する会 『知られざる戦没船の記録（上）』1995年8月
日本郵船株式会社『七つの海で一世紀　日本郵船創業100周年記念船舶写真集』1985年
福井静夫『写真日本海軍全艦艇史』1994年2月
防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 中部太平洋方面海軍作戦＜2＞　昭和十七年六月以降』 第62巻、朝雲新聞社、1973年2月。
防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書　中國方面海軍作戦＜2＞　昭和十三年四月以降』 第79巻、朝雲新聞社、1975年1月。
防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 南東方面海軍作戦＜3＞　ガ島撤収後』 第96巻、朝雲新聞社、1976年8月。
防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 潜水艦史』 第98巻、朝雲新聞社、1979年6月。
三菱重工業株式会社横浜製作所「第3話 貨客船「氷川丸」」『20話でつづる名船の生涯』三菱重工業株式会社横浜製作所総務勤労課、2013年8月。

関連項目

大日本帝国海軍艦艇一覧

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