平津村

平津村（ひらつそん）

平津村は、かつて岡山県の中央部に位置した自治体の一つです。明治時代から昭和中期にかけて存続し、現在の岡山市北区の一宮地域、具体的には楢津（ならつ）、今岡（いまおか）、首部（こうべ）、一宮山崎（いちのみややまざき）、佐山（さやま）といった地区が村の旧区域にあたります。村は1955年（昭和30年）1月1日に、近隣の一宮村および馬屋下村と合併して新設された一宮町の一部となり、その歴史を閉じました。

地理と歴史的背景

村域には、現在も貝塚が見つかる場所があり、また「楢津」や「山崎」のように海岸線に関係すると思われる地名が多く残されていることから、はるか昔、大古の時代にはこの一帯が波打ち際に面していた場所ではないかと想像されています。

古代においては、備前国（びぜんのくに）津高郡（つだかぐん）馬屋郷（うまやごう）の一部として知られていました。江戸時代に入ると、この地域は岡山藩（おかやまはん）の領地として管理されることとなります。明治維新を迎えた頃、この地域には今岡村、山崎村、そして東楢津村（後に分かれて中楢津、西楢津という枝村を含む形となりました）、首部村、佐山村という五つの村落が存在していました。特に東楢津村は、中楢津や西楢津が分かれる以前は単に楢津村と呼ばれていた記録も残っています。

村名の由来と伝説

「平津」という村の名前は、1889年（明治22年）に複数の村が合併して村が発足する際、旧楢津村に置かれていた四ヶ村連合小学校などに使われていた名称から採用されたと言われています。地域によっては、現在の小学校区が異なり、旧佐山村の区域は桃丘小学校区、それ以外の地域は平津小学校区となっています。

また、村域に含まれる「首部（こうべ）」という地名には、興味深いいわれがあります。白山神社の境内にある高さ約2メートルの塚は、古くから伝説の舞台となっています。一つには、吉備津彦命（きびつひこのみこと）が退治したとされる鬼の首を埋めた「首塚（くびづか）」であるという伝説。もう一つは、源平合戦の一つである笹ヶ瀬合戦（ささがせかっせん）で戦死した武士たちの塚であるという伝承が伝えられています。

行政区域の変遷

平津村が誕生するまでの経緯は、明治時代の町村合併の流れに沿っています。まず、1875年（明治8年）12月27日には、東楢津村とその枝村であった中楢津、西楢津が合併して「楢津村」が成立しました。

その後、1883年（明治16年）2月15日に連合戸長役場制度が導入されると、津高郡には複数の戸長役場が設置されます。このうち第四部戸長役場が楢津村に置かれ、楢津村、今岡村、山崎村、首部村の四村を管轄しました。一方、佐山村は第五部戸長役場（富原村、後の横井村に設置）の管轄となりました。

そして、1889年（明治22年）6月1日に町村制が施行された際、この第四部戸長役場の管轄区域であった四村と、第五部管轄であった佐山村の計五村が合併し、新たな自治体として「平津村」が発足しました。この合併により、旧村名を継承した五つの大字（楢津、今岡、山崎、首部、佐山）が編成され、村役場は楢津に置かれました。

1900年（明治33年）4月1日には、津高郡と御野郡（みのぐん）が合併し、御津郡（みつぐん）が誕生したため、平津村の所属郡も津高郡から御津郡へと変更されました。

昭和の大合併が進む中、1955年（昭和30年）1月1日に平津村は、一宮村、馬屋下村と共に合併し、一宮町となりました。この合併をもって、平津村は自治体としての歴史を終え、廃止されました。

教育と交通

村域には、村立の教育機関として平津村立平津小学校が置かれていました。この小学校は、現在も岡山市立平津小学校として続いていますが、その校舎は1975年（昭和50年）に移転しており、元の校舎跡地には平津コミュニティハウスなどが建てられています。

交通としては、最寄りの鉄道駅は備前一宮駅（びぜんいちのみやえき）でした。

平津村は、古代からの歴史を持ち、独特の伝説や地理的特徴を持つ地域として、現在の岡山市北区の一部にその名を留めています。

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