平田内蔵吉

平田内蔵吉

平田内蔵吉（ひらた くらきち）は、1901年から1945年を生きた日本の医学者、あるいは民間療法家、そして詩人です。兵庫県赤穂市で生まれ、その生涯において医学、詩、哲学など多岐にわたる分野を探求しました。彼の家族は文化的に恵まれており、弟には戦時小説家の平田晋策、長男にはシナリオライターの平田穂生がいます。また、孫にあたる平田オリザは現代日本を代表する劇作家として知られています。

生い立ちと学問への道

内蔵吉は1901年4月26日、赤穂市加里屋の薬種商・平田寛治（四代目夫平）と静夫妻の長男として生まれました。平田家は江戸時代、赤穂藩主森家の時代に龍野から移り住んだ由緒ある薬種商で、かつては赤穂の名所「息継ぎ井戸」の近くに店を構えていました。父の寛治は家業を営む傍ら、詩歌、茶道、書などを深く愛好し、さらには1888年に設立された赤穂銀行の頭取も務めるなど、文化人としても事業家としても地域に貢献した人物でした。内蔵吉という名前は、赤穂藩の筆頭家老として四十七士を率いた大石内蔵助良雄にちなんで名付けられたとされています。

1914年に旧制兵庫県立龍野中学校に入学し、1919年に卒業後、医師を志して鹿児島の旧制第七高等学校造士館理科乙類に進みました。しかし、この年は世界的にスペイン風邪が大流行し、彼はこのパンデミックによって父・寛治と長姉・町子を相次いで失うという悲劇に見舞われます。

1922年、京都帝国大学医学部に入学しますが、後に文学部哲学科へ転籍し卒業。その後再び医学の道へ進むため、旧制京都府立医科大学（本科）に入学しました。この在学中、彼の義母が胆石症を患い、加藤幾太郎氏による無痕灸（温熱瞬間療法）によって約2週間で完治したことに強い感銘を受け、鍼灸の道に進む決意を固めます。

民間療法家としての業績

1927年、内蔵吉は鍼灸への道を切り開いた加藤幾太郎氏が主宰する大日本温熱療法研究所に入所しました。ここで研鑽を積んだ彼は、1930年には自身の理論に基づく独自の温熱療法、「平田式心理療法」（熱針術）を提唱します。さらに、神経支配領域を示すことで知られるヘンリー・ヘッドのヘッド帯をさらに発展させ、古来東洋医学の経絡や経穴との比較検討を通じて、「平田式体表十二反応帯」（平田氏帯）という独自の診断・治療体系を提唱しました。

また、内蔵吉は1936年に武道家であり身体鍛錬法を研究した肥田春充と出会います。肥田式強健術から多くを学び、これを応用して新たな身体操練法である「経絡式中心操練法」を考案しました。そして肥田と共に、この操練法を「国民体育」として発表するなど、身体鍛錬の分野でもその知見を広げました。

自身の創始した一連の療法体系を、内蔵吉は「皇方医学」（皇法医学）と名付けました。この「皇方医学」や彼の研究した吉凶判断の一部は、平田に学んだ奥山龍峰（初代）が開いた武術流派である八光流柔術に受け継がれました。しかし、八光流に伝わる「皇方医学」は、指圧を中心に、整骨法や体操（護身体操、脊椎運動法）などに限定されており、平田が確立した「皇方医学」の全体が完全に継承されたわけではありません。

民間療法だけでなく、内蔵吉は「坐の哲学」や日本精神の真髄の探求、さらには吉凶判断の研究など、幅広い分野に関心を持ちました。

主な著作

平田内蔵吉の主な著作には以下のようなものがあります。

『民間治療全集』
『大君の詩』山雅房、1939年
『考へる人』山雅房、1939年
『美はしの苑』山雅房、1940年

最期

内蔵吉は太平洋戦争中の1944年8月に応召されました。そして、1945年、沖縄県大里村にて戦死しました。44歳という短い生涯でしたが、医学、哲学、詩など多岐にわたる分野で独自の探求を行い、後世にその影響を残しました。

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