内藤新宿

内藤新宿とは

内藤新宿（ないとうしんじゅく）は、江戸時代に甲州街道に設けられた宿場の一つで、江戸日本橋から数えて最初の宿場でした。現在の東京都新宿区新宿一丁目から三丁目にかけての一帯に位置し、東海道の品川宿、中山道の板橋宿、日光街道の千住宿と並び、江戸四宿として知られています。

開設の背景

1604年、江戸幕府は日本橋を五街道の起点と定め、各街道に一里塚を設置し、宿場を整備しました。甲州街道最初の宿場は高井戸宿でしたが、日本橋から約16kmと離れており不便でした。他の街道の宿場が日本橋から約8kmの位置にあったため、甲州街道だけが江戸近郊に宿場を持たない状況でした。このため、日本橋伝馬町と高井戸宿の負担が大きくなり、江戸の発展に伴い甲州街道の通行量も増加していました。

開設

1697年、浅草の商人たちが幕府に新しい宿場の開設を願い出ました。幕府は5600両の上納を条件に許可し、日本橋から約8kmの青梅街道との分岐点付近に宿場が設けられることになりました。宿場予定地には、内藤家の屋敷などがありましたが、幕府に返上させ、宿場用地としました。高松喜兵衛ら10名の商人が中心となり、街道の拡幅や整地を行い、1699年に内藤新宿が開設されました。

宿場名は、以前からこの付近にあった「内藤宿」に由来します。内藤新宿の助郷は、周辺24か村が担当することになりました。浅草の商人たちが多額の費用をかけて宿場開設を願った背景には、この地を新たな繁華街として開発し、利益を得るという目的があったと考えられています。

繁栄

内藤新宿は、四谷大木戸から新宿追分まで東西約1kmに広がり、上町、仲町、下町に分かれていました。宿場開設に尽力した高松喜兵衛は、喜六と名を改め、内藤新宿の名主を務めました。宿場内には旅籠屋や茶屋が増え、岡場所としても賑わいました。宿場に遊女を置くことは禁止されていましたが、飯盛女や茶屋女という名目で置かれていました。1718年には、旅籠屋が52軒あったという記録が残っています。しかし、吉原が取り締まりを求めたことで、宿場廃止の原因の一つになったと言われています。

廃止

1718年10月、内藤新宿は幕府によって廃止されました。理由は表向きには「甲州街道は旅人が少なく、新しい宿であるため」とされましたが、実際には風紀上の問題が大きかったと考えられています。同時期に飯盛女の人数制限が強化されたことも、内藤新宿が岡場所として繁栄していたことを示唆しています。廃止後、宿場としての機能は失われ、町は衰退しました。

再開運動

1723年、高松喜六らが宿場の再開を願い出ましたが、認められませんでした。1735年には幕府が再開を検討するよう指示しましたが、1737年に却下されました。その後も角筈村に宿場を新設する案が出ましたが、いずれも風紀上の問題から認められませんでした。

再開

1772年4月、内藤新宿が再開されました。これは、品川宿、板橋宿、千住宿の財政悪化が背景にありました。各街道で公用通行が増加し、宿場の負担が増していたため、幕府は風紀規制を緩和し、助郷村を増やすことで対応しました。飯盛女の人数制限も緩和され、各宿場の財政は好転し、内藤新宿の再開への障害もなくなりました。再開時には、飯盛女は150人まで、年貢とは別に毎年155両を上納すること、助郷村は33か所と定められました。再開後、町は賑わいを取り戻し、明治維新までその繁栄は続きました。現在の新宿という地名は、この内藤新宿に由来しています。

逸話

旗本の内藤新五左衛門の弟が、内藤新宿の旅籠屋で飯盛女と揉めて袋叩きにされたという話があります。これを知った兄は弟を切腹させ、宿場の廃止を求めたという話がありますが、真偽は不明です。

遊女の取り締まり

内藤新宿では、飯盛女が置かれ岡場所として賑わっていました。しかし、吉原が取り締まりを求めたことで、一度は宿場が廃止されました。その後、規制が緩和され、内藤新宿も再開されました。

名所・旧跡

内藤新宿には、太宗寺、正受院、成覚寺、天龍寺、花園神社などの名所・旧跡があります。これらの寺院には、江戸六地蔵、閻魔大王像、奪衣婆像など、多くの文化財が現存しています。成覚寺は、内藤新宿の飯盛女の投げ込み寺でした。

隣の宿場

江戸（日本橋）と内藤新宿の間、また内藤新宿と高井戸宿の間に、宿場はありませんでした。

脚注

この文章は、以下の参考文献を参考に作成されました。

江戸四宿実行委員会『特別展江戸四宿』
安本直弘『改訂四谷散歩』
安宅峯子『江戸の宿場町新宿』
新宿歴史博物館編集『新宿文化財ガイド（改訂版）』
ロム・インターナショナル（編）『道路地図びっくり!博学知識』
『江戸東京散歩』
斎藤長秋編『江戸名所図会』
堀江朋子『新宿センチメンタル・ジャーニー―私の新宿物語』