平良門

平良門：伝説の武将か、妖怪か

平良門（たいら の よしかど）は、平安時代中期に現れたとされる伝説上の人物です。平将門の長男という説があり、「良兌」や「良忩」とも記されます。

多様な伝承

国文学者の梶原正昭と矢代和夫は、良門に関する説話を大きく3つの系統に分類しました。

法華系統：『本朝法華験記』などに記述が見られ、良門は殺生を繰り返す荒武者でしたが、空照という聖に諭されて改心し、法華経の写経を行った結果、兜率天に昇ったとされます。この系統では、将門との関係は語られていません。
地蔵系統：『今昔物語集』などに収録された蔵念説話に登場します。蔵念は地蔵菩薩の霊験を広めた僧侶ですが、『今昔物語集』では将門の孫で良門の子であるとされています。この説話は11世紀初頭には成立していた可能性があります。
* その他の伝承：東京都西多摩地方の三田氏や、埼玉県秩父市の城峯山周辺に伝わる話があります。奥多摩町の将門神社には、良門が将門の旧跡を訪れ、神像を納めたという伝承が残っています。城峯山には、良門が将門の菩提を弔うために太平明神を創建したという伝承があります。

文芸作品における良門

後世の文芸作品では、良門のイメージはさらに複雑化します。

通俗史書『前太平記』では、良門は将門の遺児として描かれ、如蔵尼に育てられます。成長後、良門は自身の出自を知り、父の仇を討つことを決意します。多田満仲を襲撃するも、渡辺綱に討ち取られるという結末を迎えます。ここでは、良門は仏道に帰依する人物ではなく、復讐に燃える存在として描かれています。

『前太平記』は、フィクションでありながら歴史的事実を巧みに取り込んでおり、近世の地誌にも影響を与えました。如蔵尼と良門の物語は、『関八州馬繋』や『善知安方忠義伝』といった近世の文芸作品に大きな影響を与え、怨霊としてのイメージを定着させました。

このように、平良門は時代や地域によって様々な姿で語り継がれてきた人物です。武将、仏教に帰依した人物、あるいは怨霊として、そのイメージは多様に変化し、今もなお人々の記憶に残り続けています。

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