平野弘道

平野 弘道（ひらの ひろみち）

日本の古生物学分野において、顕著な功績を残した研究者の一人である平野弘道氏（1945年5月31日生 - 2014年5月5日没）は、特に太古の海の生物であるアンモナイトの研究や、白亜紀の地質時代の地層、そして当時の地球環境の解明に貢献し、古生物学の第一人者と評される。

現在の北朝鮮である朝鮮咸鏡北道清津市に生を受け、1964年に愛知県にある東海高等学校を卒業した。大学は横浜国立大学教育学部で学び、1968年に卒業。さらに専門的な研究を進めるため、九州大学大学院理学研究科の博士課程へ進学し、1974年に修了した。大学院での研究では、上部白亜紀に生息していたゴードリセラス属という種類のアンモナイトについて、個体が発生・成長していく過程を詳細に追跡した。この成果をまとめた論文「上部白亜紀ゴードリセラス属数種の個体発生学的研究」により、九州大学から理学博士の学位を授与された。

博士課程修了後、研究者としてのキャリアを九州大学理学部助手としてスタートさせた。1977年には東京へ移り、早稲田大学教育学部地学専修の専任講師に就任。その後、順調に昇進し、1979年に同専修の助教授、1985年には教授となった。教授就任以降は、教育学部の教育に加え、早稲田大学大学院理工学研究科の地球・環境資源理工学専攻の教授も兼任し、大学院生の研究指導にも尽力した。

平野氏の学術的な貢献は多岐にわたるが、中心は絶滅した頭足類、アンモナイトの研究であった。特に白亜紀のアンモナイトを中心に、その形態形成、進化の軌跡、古生態、そしてそれらが含まれる地層の比較・分類（白亜系層序）や当時の古環境復元に取り組んだ。博士論文のテーマであったアンモナイトの個体発生研究は、生物の進化過程を理解する上で重要な知見を提供した。また、地球史における重要な出来事である白亜紀の海洋無酸素事変にも焦点を当て、これが当時の海洋生物、特にアンモナイトの多様性や進化にどのように影響したかを解析した。アンモナイトの進化速度、分布パターン、そして環境変動との関連性など、多くの学術論文を発表している。日本各地の地層だけでなく、東アジアやインドといった海外の白亜系堆積物に関する研究も行い、国際的な研究交流にも貢献した。さらに、現存するオウムガイ類の生理生態研究を取り入れ、絶滅したアンモナイトの生活様式を推測するなど、ユニークな視点からの研究も展開した。

学術界での活動においては、日本古生物学会で中心的な役割を担い、2001年から2003年にかけては会長を務めた。研究成果を学術誌で発表するだけでなく、古生物学の面白さや重要性を広く一般に伝えることにも熱心であった。数多くの啓蒙書を執筆し、『恐竜はなぜ滅んだか』や『絶滅古生物学』などの著作は、多くの一般読者に地球の生命史への関心を抱かせた。また、高校の地学教科書の作成にも中心的な立場で参画し、次世代を担う学生たちへの古生物学教育の普及にも尽力した。

長年にわたる卓越した研究活動と学会、教育への貢献は高く評価され、複数の権威ある賞を受賞している。

1973年 - 日本古生物学会論文賞
1975年 - 松永記念科学振興財団奨励賞
1990年 - 日本古生物学会学会賞

主要な著作・翻訳は以下の通りである。

『さかなの出現』（ひらのひろみち名義）らくだ出版、1980年
『恐竜はなぜ滅んだか』講談社現代新書、1988年
『史上最大の恐竜ウルトラサウルス』講談社現代新書、1990年
『地球を丸ごと考える 7 繰り返す大量絶滅』岩波書店、1993年
『絶滅古生物学』岩波書店、2006年
* （翻訳）J.C.マクローリン作・画『消えた竜 哺乳類の先祖についての新しい考え』（小畠郁生共訳）岩波書店、1982年

平野弘道氏は、アンモナイト研究を核とした深い専門知識と、教育・啓蒙活動への情熱を併せ持ち、日本の古生物学の発展と普及に多大な足跡を残した研究者であった。

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