平野陽三

平野 陽三

日本の実業家であり、映画監督としても知られる平野陽三氏は、1985年10月9日に愛媛県今治市で生まれました。現在は、著名な実業家である前澤友作氏の活動を多角的にサポートするマネージャー兼プロデューサーを務めています。彼の経歴の中でも特筆すべきは、2021年12月にロシアのソユーズMS-20宇宙船に搭乗し、前澤氏と共に国際宇宙ステーション（ISS）への宇宙飛行を実現したことです。この宇宙での貴重な体験は、後に彼自身が監督を務めたドキュメンタリー映画『僕が宇宙に行った理由』として公開されました。

平野氏のキャリアは、2007年に衣料品通販サイトZOZOTOWNを運営する株式会社スタートトゥデイへの入社からスタートしました。同社を退職後、CM制作の現場で経験を積み、独立。その後、2018年に前澤友作氏と再び共に働くことになります。以来、前澤氏のパーソナルな活動のマネジメントに加え、民間人による月周回プロジェクトであるdearMoonプロジェクトなど、様々な大規模プロジェクトにおいてプロデューサーとしての役割を担っています。

宇宙への旅は、アメリカの宇宙旅行企画会社スペース・アドベンチャーズが手配するプログラムへの参加から始まりました。当初2020年末にバックアップクルーに選ばれていましたが、2021年5月には、予定されていた飛行士の交代に伴い、ソユーズMS-20のメインクルーとしてISSへの搭乗と約12日間の滞在が正式に発表されました。宇宙飛行に向けた準備は多岐にわたり、非常に厳しいものでした。まずメディカルチェックでは、宇宙空間での健康リスクを最小限にするため、親知らずを含む合計5本の歯を抜歯しました。その後、2021年9月には前澤氏と共にアメリカのNASAで短期訓練を受け、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センターへと移りました。ここでは、水泳やランニング、筋力トレーニングといった体力強化に加え、ソユーズ宇宙船の構造や操作、打ち上げから軌道投入までの手順、そしてISSのシステムに関する専門知識を座学で深く学びました。10月以降は、ソユーズ船長アレクサンダー・ミシュルキン氏との合同訓練が本格化し、ソユーズのシミュレーターを使ったフライト訓練や、宇宙空間での突発的な事態、例えばガス漏れや低酸素状態などに対応するための実践的な訓練が繰り返されました。こうした厳しい訓練課程を終えた後、クルーはカザフスタンへ移動し、11月に行われた最終試験に合格。そして、2021年12月8日、バイコヌール宇宙基地からソユーズMS-20は無事打ち上げに成功しました。翌12月9日午前1時11分（日本時間）、ソユーズはISSへのドッキングを完了し、平野氏ら搭乗員はステーション内へと移動しました。

平野氏の宇宙飛行における主なミッションは、前澤氏のISS滞在中の様子を映像で記録することでした。この重要な記録者としての役割を全うするため、平野氏はロシアのロスコスモスやNASAの協力のもと、宇宙でのカメラ操作に関する徹底的な訓練を受けていました。ISSへの持ち込みカメラは、小型のGoProを含む計5台。これらの機材を駆使し、YouTube配信用の映像制作に加え、前澤氏へのインタビューを実施したり、ISSの窓から見える母なる地球、特に美しい日本列島の姿を捉えようと、常に撮影の機会を伺っていました。また、一般からの公募や親しい人々から託された約200枚の人物写真を、ISSのキューポラなどから見える地球を背景に撮影するというユニークな試みも行いました。なお、平野氏のバックアップクルーとしては、前澤氏が関連する会社の社員である小木曽詢氏も、平野氏と同様に宇宙飛行士訓練に参加していました。約12日間のISS滞在を終えた後、2021年12月20日（日本時間12時13分）、ソユーズMS-20はカザフスタンのジェスカスガン市の南東約148km地点に無事着陸し、地球への帰還を果たしました。

地球に帰還後、平野氏は宇宙で撮影した膨大な映像素材の活用方法について深く考え始めます。当初は映画制作の予定はありませんでしたが、帰還から約2ヶ月が経ち、ロシアによるウクライナ侵攻など、国際情勢が緊迫化する中で、宇宙から地球を俯瞰して強く感じた「地球は一つであり、国境線は存在しない」というメッセージを、多くの人々に伝えるべきだと確信しました。かねてより映像監督になるという夢を抱いていた平野氏は、この思いを前澤氏に直接提案。自身が記録した貴重な映像を基に、一本のドキュメンタリー映画として完成させることを決意します。こうして誕生したのが、映画『僕が宇宙に行った理由』です。この作品は、実際に宇宙への渡航を経験した人物が、自ら撮影を行い、監督を務めた映画としては、日本人にとって初めての事例となりました。

宇宙飛行に向けた訓練期間は、平野氏に人間的な成長と多くの気づきをもたらしました。特に、共に訓練に励む他の宇宙飛行士候補者たちとの交流を通じて、ソユーズ宇宙船の一席を得ることの難しさ、そしてその重みを改めて痛感したといいます。ある日のフィジカルトレーニング後のサウナで出会った宇宙飛行士は、すでに18年もの長きにわたり訓練を続けていながらも、まだISSへの飛行機会を得られていない状況でした。しかし、その方がサウナを出る際に、平野氏に向かって「ISSもうすぐだね、楽しみだね」と、一切の羨望を見せず笑顔で語りかけてくれた姿に、平野氏は深く心を動かされました。自分が宇宙に行って本当に良いのだろうか、という葛藤も内心抱えましたが、最終的には、自分にしかできない「記録者」としての役割に集中することを、その葛藤に対する答えとして見出したのです。平野陽三氏の経験は、単に宇宙旅行者としての記録に留まらず、映像を通じて自己の使命を追求し、人間的な葛藤を乗り越えた物語として、多くの人々に感銘を与えています。

もう一度検索