スペース・アドベンチャーズ

スペース・アドベンチャーズ（英語: Space Adventures, Ltd.）は、1998年にエリック・C・アンダーソンによってアメリカ合衆国バージニア州に設立された、民間宇宙旅行の分野における先駆的な企業です。バージニア州ビエナに本社を構え、ロシアのモスクワにも活動拠点を設けています。

同社は、個人顧客向けに多様な宇宙関連体験を提供しています。その中心となるのは、国際宇宙ステーション（ISS）への軌道宇宙飛行プログラムですが、他にも大気圏内での無重力体験フライト、宇宙飛行士を育成するための専門的な訓練プログラム、そしてソユーズ宇宙船の打ち上げを間近で見学するツアーなども企画・実行しています。また、将来的なサービスとして、月を周回する壮大な宇宙旅行や、より手軽な弾道宇宙飛行の提供も視野に入れて計画を進めてきました。

軌道宇宙飛行の実績

スペース・アドベンチャーズは、2001年以降、これまでに合計8回のミッションを通じて、7名の個人顧客を国際宇宙ステーションへと送り出した実績を持ちます。これらの宇宙旅行は、一人あたりおよそ2000万ドルという高額な費用を要しましたが、多くが著名な実業家や富豪が参加しました。搭乗者はロシアのソユーズ宇宙船でカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、宇宙へ向かう前にロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センターなどで数ヶ月間にわたる集中的な訓練を受けています。

特に知られている宇宙旅行者には以下の方々がいます：

デニス・チトー: 2001年、世界で初めて民間人として宇宙旅行を実現し、ISSを訪れました。
マーク・シャトルワース: 2002年に宇宙へ行った南アフリカ出身の実業家で、アフリカ人として初の宇宙滞在者となりました。宇宙での時間は教育や科学研究のために捧げられました。
グレゴリー・オルセン: 2005年にISSに滞在し、微小重力下での人体に関する実験に参加しました。
アニューシャ・アンサリ: 2006年、女性として初めて宇宙旅行を経験しました。ISS滞在中に医学・生物学分野の複数の研究に従事しています。
チャールズ・シモニー: 元マイクロソフト社の幹部で、2007年と2009年の2度にわたり宇宙を訪れました。民間宇宙飛行の普及促進や科学教育への貢献を目指しました。
リチャード・ギャリオット: ゲーム業界で知られる人物で、2008年に宇宙へ。彼の父も宇宙飛行士だったため、米国で初めて親子二代で宇宙に行った家庭となりました。商業的な宇宙開発の可能性を示すことを目的としていました。
ギー・ラリベルテ: 有名なエンターテイメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」の創設者。2009年にカナダ人として初めて宇宙旅行を体験し、自身の慈善活動「ワン・ドロップ財団」をアピールする「詩的な社会ミッション」を行いました。
前澤友作、平野陽三: 日本のファッション通販サイトZOZOTOWNの創業者である前澤氏と、そのカメラマンとして同行した平野氏も、スペース・アドベンチャーズの手配によりISSに滞在しています。

宇宙遊泳オプションとその他のサービス

2006年からは、ISSへの宇宙旅行者向けに追加オプションとして宇宙遊泳（船外活動）を提供する計画を発表しています。このオプションを選択すると、約1500万ドルの追加費用で最大1.5時間の船外活動が可能になる見込みでした。船外活動にはロシア製のオーラン宇宙服を使用し、通常の訓練に加え専門的なトレーニングが必要とされます。

同社はまた、2008年にはFAAの承認を得て一般向けに無重力飛行サービスを提供していたゼロ・グラビティー・コーポレーションを買収し、サービスラインナップを拡充しています。

月面ミッションと弾道飛行への試み

スペース・アドベンチャーズは、月を周回する旅行計画である「DSEアルファ計画」の構想も打ち出し、事前予約を受け付けていました。この壮大な旅の価格は1席あたり1億ドル（後に1億5000万ドルで販売された席があると公表）とされ、ロシアのソユーズ宇宙船と専用の月推進モジュールを組み合わせて使用する計画でした。約8～9日間の行程で月面から比較的近い距離を通過する予定で、2015年頃の実現を目指していましたが、現在までに具体的な進展は確認されていません。

また、より手軽な宇宙体験として弾道宇宙飛行の分野にも関心を寄せ、かつては独自のシステム開発を試みたり、アルマジロ・エアロスペースが開発していた弾道飛行機の座席販売を手がけたりもしましたが、これらの取り組みはいずれも費用や協力企業の資金難といった理由から実現には至っていません。

オービタル・ミッション・エクスプローラーズ・サークル

将来の宇宙飛行への投資に関心のある個人向けに「オービタル・ミッション・エクスプローラーズ・サークル」という会員プログラムを設立しています。このプログラムの参加者は、将来のミッションへの優先的な参加権を得ることができ、優先権を他者に販売することも可能です。Googleの共同創業者であるセルゲイ・ブリン氏は、500万ドルを預託してこのサークルの創立メンバーとなっています。

組織と背景

設立者のエリック・C・アンダーソンは、現在も社長兼最高経営責任者として会社を率いています。設立時には、航空宇宙分野のみならず、冒険旅行やエンターテイメント業界の経験を持つ企業家たちも共同で設立に関わりました。

同社の審議会には、アポロ11号のバズ・オルドリン氏をはじめとする、アメリカのスペースシャトル計画やロシアのソユーズ計画に参加した多くの著名な元宇宙飛行士たちが名を連ねています。彼らの豊富な経験と知見は、同社の活動に大きな信頼性を与えています。

訴訟について

過去には、日本の実業家である榎本大輔氏が、医療上の理由で宇宙飛行をキャンセルされた際の費用払い戻しを巡って同社を提訴した事例がありました。この訴訟は2009年に和解という形で解決しましたが、その詳細内容は非公開となっています。

スペース・アドベンチャーズは、黎明期の商業宇宙旅行市場を切り開いてきた企業として、数々の実績を残すと同時に、新たな宇宙体験の可能性を追求し続けています。その活動は、民間による宇宙空間の利用拡大に向けた一歩となっています。

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