幻想小曲集作品12 (シューマン)

シューマン『幻想小曲集』作品12について

ロベルト・シューマンが1837年に作曲したピアノ曲集『幻想小曲集（Fantasiestücke）』作品12は、全8曲からなる作品です。タイトルが示すように、各曲は幻想的な雰囲気と豊かな情緒に満ち溢れており、それぞれに文学的な標題が付けられています。シューマンの作品には、他にも「幻想小曲集」と銘打たれた作品がありますが、この作品12は特に有名で、シューマンの代表作の一つとして広く知られています。

この作品集は、シューマンのロマンティックな感性と、文学的なインスピレーションが融合した、非常に魅力的な作品です。それぞれの楽曲は、独立した個性を持つと同時に、全体として一つの物語を紡ぎ出しているかのようにも感じられます。

各曲の詳細

第1曲「夕べに（Des Abends）」 変ニ長調

発想標語: Sehr innig zu spielen（非常に心を込めて弾く; Con molto sentimento）
3連符の伴奏の上で、アクセントの異なる3連符の旋律が歌われる、複雑なリズム構成が特徴です。2拍子と3拍子が絡み合い、独特の幻想的な雰囲気を醸し出します。

第2曲「飛翔（Aufschwung）」 ヘ短調

発想標語: Sehr rasch（極めて速く; Molto vivo）
この曲集の中でも最も有名な楽曲の一つで、ロンド形式（ABACA）で構成されています。力強い冒頭部分が印象的で、内声部で情熱的な旋律が奏でられます。中間部では、変ニ長調や変ロ長調に転調し、軽やかで落ち着いた雰囲気に変化します。

第3曲「なぜに（Warum?）」 変ニ長調

発想標語: Langsam und zart（ゆっくりそして優しく; Lento e teneramente）
標題通り、問いかけるような主題が2声で静かに進行します。優しく、繊細な雰囲気が特徴的です。

第4曲「気まぐれ（Grillen）」

発想標語: Mit Humor（ユーモアをもって; Con umore）
スケルツォ形式で構成されており、変ニ長調を基調としていますが、開始部分から転調を繰り返し、気まぐれな展開を見せます。中間部は変ト長調のコラールとなり、全体としてユーモラスな雰囲気が漂います。ちなみに、ドイツ語のタイトルは「バーベキュー」の意味も持ちます。

第5曲「夜に（In der Nacht）」 ヘ短調

発想標語: Mit Leidenschaft（情熱をもって; Appassionato）
波打つようなアルペジオの伴奏に、断片的な旋律が現れます。シューマン自身がこの曲を最も気に入っており、演奏会にも適していると述べています。また、この曲を演奏する際に、シューマンはギリシャ神話の「ヘーローとレアンドロス」の物語をイメージしていたと伝えられています。

第6曲「寓話（Fabel）」 ハ長調

発想標語: Langsam（ゆっくり; Lento）
フェルマータを含むゆっくりとした部分と、スタッカートの速い部分が交互に現れる構成が特徴です。

第7曲「夢のもつれ（Traumes Wirren）」 ヘ長調

発想標語: Äußerst lebhaft（極めて速く; Vivacissimo）
非常に速く、軽やかに鍵盤上を駆け巡るような楽曲で、一時的な夢を見ているかのような印象を与えます。その演奏の難しさから、「指のもつれ」と揶揄されることもあります。中間部にはコラールが現れ、転調を繰り返しながら主題が再現されます。

第8曲「歌の終わり（Ende vom Lied）」 ヘ長調

発想標語: Mit gutem Humor （適度なユーモアをもって; Con buon umore）
曲集の最後を飾るにふさわしく、ユーモラスな雰囲気を持っています。シューマン自身は、この曲でオクターブが重なり合って音楽が形成される様子を「結婚式と葬式の鐘が入り混じって聞こえてくる」と表現しています。最後は瞑想的なコラールとなり、静かに鐘の音が響きながら終わります。

脚注

この作品集は、シューマンのロマンティックな感性と、文学的なインスピレーションが融合した、非常に魅力的な作品です。それぞれの楽曲は、独立した個性を持つと同時に、全体として一つの物語を紡ぎ出しているかのようにも感じられます。シューマンの音楽世界に触れる上で、この『幻想小曲集』作品12は、非常に重要な作品の一つと言えるでしょう。

外部リンク

「寓話」と「夢のもつれ」の演奏（Internet Archive）
幻想小曲集の楽譜（国際楽譜ライブラリープロジェクト）)

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