幻想曲 (シューマン)

ロベルト・シューマン ピアノのための幻想曲 ハ長調 作品17

ロベルト・シューマンの「幻想曲 ハ長調 作品17」は、初期のピアノ作品の中でも特に重要な位置を占める作品です。この曲は、シューマンのロマン主義的な傾向が顕著に現れており、彼の内面世界を深く探求した、情熱的で詩的な作品として知られています。演奏時間はおよそ30分程度で、3つの楽章から構成されるソナタ風の幻想曲です。

作曲の背景

1835年、フランツ・リストらを中心に、ベートーヴェンの記念碑を建設する計画がボンで持ち上がりました。シューマンもこの計画に賛同し、寄付を募るためにこの曲を作曲しました。1836年から1838年にかけて作曲されたこの作品には、ベートーヴェンへの敬意が込められており、曲中にはベートーヴェンの作品からの引用も見られます。しかし、この作品は、単なる記念碑のための曲ではなく、シューマン自身の内面を深く反映したものでもあります。当時、シューマンは恋人であるクララ・ヴィークの父親から結婚を反対されており、将来が見えない状況にありました。この不安定な心情は、曲の構成や転調、調性感にも現れていると言われています。当初、この曲は「フロレスタンとオイゼビウスによる大ソナタ」と題され、各楽章にも表題が付けられていましたが、最終的には削除され、代わりにフリードリヒ・シュレーゲルの詩の一節がモットーとして掲げられました。この曲は1839年に出版され、リストはシューマンに献呈されたこの曲を「最高級の作品」と称賛し、その壮大さに感銘を受けたと述べています。

楽曲構成

第1楽章: Durchaus fantastisch und leidenschaftlich vorzutragen - Im Legenden-ton - Tempo primo （全く幻想的に、情熱的に弾くこと - 昔語りの調子で - 初めのテンポで）

第1楽章は、自由なソナタ形式で構成されています。冒頭から華やかな伴奏に導かれ、ハ長調の第1主題が現れますが、すぐにハ短調に転じ、第2主題へと続きます。展開部では「昔語りの調子で」と指示された悲痛なハ短調の主題が現れ、展開の中心となります。再現部では、第1主題がハ短調で現れる部分から始まり、最後にベートーヴェンの連作歌曲「遥かなる恋人に寄す」が引用された、憧憬に満ちたアダージョで静かに幕を閉じます。この楽章は、シューマンの情熱的な内面と、不安定な感情が交錯する様子を表しているかのようです。

第2楽章: Mäßig. Durchaus energisch - Etwas langsamer - Viel bewegter （中庸に。全く精力的に - ややゆっくりと - 極めて活発に）

第2楽章は、変ホ長調の自由なロンド形式で構成されています。行進曲風の第1主題に続き、シューマン好みの付点リズムが強調された第2主題が現れます。さらに変イ長調のゆっくりした主題が現れますが、再び精力的な音楽に回帰し、輝かしく終結します。この楽章は、ベートーヴェンのピアノソナタ第28番との共通性が指摘されており、シューマンのベートーヴェンへの敬愛が感じられます。

第3楽章: Langsam getragen. Durchweg leise zu halten - Etwas bewegter （ゆっくり弾くこと。常に静けさをもって - やや活発に）

第3楽章は、第2楽章とは対照的に、静かで穏やかな勝利の歌です。ハ長調で、自由なソナタ形式で構成されており、ソナタ形式で言うところの緩徐楽章に相当します。この楽章は、独特の余韻を残して曲を締めくくります。静けさの中に、深い感情が込められた、感動的な楽章です。

まとめ

「幻想曲 ハ長調 作品17」は、シューマンのピアノ作品の中でも傑作の一つであり、彼のロマン主義的な特徴が色濃く表れた作品です。ベートーヴェンへの敬意、恋人クララへの想い、そしてシューマン自身の内面が複雑に絡み合い、聴く人の心を揺さぶる、情熱的で詩的な音楽体験をもたらしてくれるでしょう。

外部リンク

幻想曲 - ピティナ・ピアノ曲事典
Phantasie, Op.17 (Schumann, Robert)の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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