幻灯機

幻灯機とは

幻灯機（げんとうき、英語: magic lantern）は、光源となるランプと光学レンズを組み合わせて、ガラス板に描かれた絵や写真といった画像を、壁や布などのスクリーンに大きく映し出す装置です。これは、現代のスライド映写機やプロジェクターの直接的な祖先にあたる機械であり、その歴史は非常に古いものです。

歴史と発展

幻灯機の概念は古くから存在し、東洋では中国の文献に2世紀頃には既に類似の装置が登場していたとする研究者もいます。西洋においても、15世紀以前からランタンを使って画像を拡大投影する試みが行われていました。

現在知られるような、レンズと交換可能なスライド（ガラス板）を用いた本格的な幻灯機は、17世紀半ばにヨーロッパで発明（あるいは再発明）されたと考えられています。この技術の発展には、イエズス会の学者アタナシウス・キルヒャーや、オランダの科学者クリスティアーン・ホイヘンスといった人物が貢献したとされています。

17世紀後半には、幻灯機はヨーロッパ各地へと急速に普及しました。旅回りの芸人、修道士、学者、さらには眼鏡を扱う商人など、様々な人々がこれを活用しました。見世物としての興行、宗教的な教えを広めるための布教、学術的な講演など、その用途は多岐にわたります。特に1670年代には、イエズス会士クローディオ・フィリッポ・グリマルディが清の皇帝の前で幻灯機を使った上演を行った記録も残っており、その広がりは国際的なものでした。

18世紀に入ると、投影される画像を動かす技術が開発されました。オランダの数学者ピエール・ファン・ムッセンは、スライドの一部を回転させるなどの機構を考案し、より動きのある表現を可能にしました。この技術は、スモークや恐怖を煽るような音楽と組み合わされ、「ファンタスマゴリア」と呼ばれるショーへと発展しました。ファンタスマゴリアはパリで絶大な人気を博し、その形式はヨーロッパ全土に模倣されていきました。

イギリスでは、幻灯機を使った巡回上映が特に盛んに行われました。使用されるスライドには様々な工夫が凝らされており、複数枚のガラスを重ねたり、一部を回転させたりすることで、特殊効果を生み出すものが登場しました。子供たちに人気を博した作品としては、『The Rat Swallower』があり、これはネズミが眠っている男性の口に次々と飛び込んでいくという奇妙な内容でした。また、ナポレオン戦争の時期には、イギリス軍艦とフランス軍艦の戦闘を描き、最終的にフランス艦が沈むといった、愛国心を鼓舞する内容の作品も作られました。

写真技術の影響と新たな展開

19世紀に写真技術が発明されると、幻灯機の歴史に大きな転機が訪れます。ガラス板への画像の焼き付けや複製が容易かつ安価になったことで、スライドの制作コストが下がり、映し出せる内容のレパートリーも飛躍的に増大しました。これにより、幻灯機は一層普及しました。

この時代には、「トラヴェローグ」と呼ばれるスライドショーが人気を博しました。これは、異国の風景や有名な建造物の写真スライドを投影しながら、弁士が解説を加えるという形式です。最も有名なトラヴェローグ興行の一つに、アメリカのバートン・ホームズによるものがあります。

他にも、連続した写真を使って著名人の成功物語や道徳的な教訓を描き、スライドセットとして販売されるなど、新たな用途が生まれました。また、都市部では建物の壁面をスクリーンに見立てた屋外広告にも幻灯機が利用されるようになりました。

映画への移行と現在

19世紀末、活動写真（映画）が発明され、連続する画像を高速で映写する映画システムが登場すると、幻灯機の果たしてきた役割は次第に映画へと引き継がれていきました。市場の中心は映画へと移り、商業的な用途としての幻灯機は衰退していきました。

現在、かつて使われていた幻灯機本体やスライドは、歴史的な遺物として、あるいは美しい工芸品として、好事家たちの収集対象となっています。

日本における幻灯機

日本に幻灯機が知られるようになったのは18世紀頃とされています。1779年（安永8年）に刊行された手品に関する書物『天狗通』には、「影絵眼鏡」という名前で幻灯機が紹介されています。

1803年には、オランダから伝来した幻灯機を使った見世物「エキマン鏡」が上演され、大きな評判となりました。これを見た都屋都楽（とやとらく）という人物が、「写し絵」と名付けて自身の寄席興行に取り入れ、以来、幻灯は日本の寄席芸の一つとして確立されることとなりました。

明治時代になると、西洋文化の流入と共に幻灯機は一般に広く普及し、特に明治20年代にはちょっとしたブームとなりました。各地で幻灯会が催されたほか、学校教育の現場でも、図や写真を見せるための視聴覚教材として積極的に活用されました。幻灯機は、人々に様々な知識や娯楽を提供する重要なメディアとして、日本の近代化の一端を担ったと言えるでしょう。

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